Automotive Newsletter
Ⅰ. はじめに
本号では、2025年2月26日に出された、経済産業省の「より配送能力の高い自動配送ロボットの社会実装検討WG」(以下「本WG」といいます。)の取りまとめの内容をご紹介します。
物流分野の深刻な人手不足等が懸念される中、特にラストワンマイル配送の領域では、課題解決に資する手段の1つとして、自動配送ロボットを活用した配送サービスの社会実装が期待されています。2023年4月には、改正道路交通法の施行により、低速・小型ロボットは「遠隔操作型小型車」として公道走行が可能となり、社会実装が進んでいます。他方で、諸外国のように遠隔操作型小型車よりもサイズが大きく速度も速い自動配送ロボットの実証実験やルール整備はまだ進んでいないことから、本WGにおいて、期待されるユースケース、産業界が求めるロボットの仕様と運用、目指すべき姿について、有識者と事業者の意見が取りまとめられました。
Ⅱ. 現状と課題
我が国において、物販系分野BtoC-EC市場は、2023年時点で約14.7兆円に達するとともに、宅配取扱個数も2023年時点で約50億個に達しており、配送需要は増加傾向にあります。
また、食料品アクセス困難人口1は、全国で約904万人(全65歳以上人口の25.6%。2020年現在。)と推計されており増加傾向にあります。
さらに、2027年には約24万人のドライバーが不足し、2030年には物流需要の約34%が運べなくなるとの試算がなされている一方で2、2024年4月1日からは、働き方改革関連法3により、自動車運転の業務に関しても上限規制4が適用され、拘束時間・運転時間等の規制も強化されました5。
このような状況の中、物流をめぐる課題の解決策に加え、大規模な経済的効果や雇用創出を企図して従来よりも輸送能力の高い自動配送ロボットの社会実装が期待されています。
Ⅲ. 目指すべき姿(産業界が求めるロボットの仕様と運用)
1. 全体像
取りまとめは、産業界関係者のニーズと有識者知見をベースにした、期待されるユースケース、機体の大きさ、速度、構造、通行場所と通行方法等からなる「目指すべき姿」を示したものです。今後、実証実験を通じて「目指すべき姿」の精緻化を進め、将来的な社会実装に繋げることが想定されており、そのための“基礎資料”として作成されています。その中では、下表のとおり、中速・中型ロボットと中速・小型ロボットの仕様と運用の仮説も取りまとめられています(詳細は下記2.及び3.ご参照。)。
ロボットの運用方法については、安全性や複数台同時運用の観点から、中速走行の場合、低速走行よりも自動走行技術の重要度が増すため、技術的観点から、自律走行可能な技術の実装が目指すべきであるとされています。また、制度的観点では、特定条件下における自律走行や、オペレーターによる遠隔操作を含む走行など、様々な運用方法につき意見が述べられ、今後の技術発展や社会実装のスピード感等を総合的に踏まえて検討を行うべきとされています。
2. 中速・中型ロボット
中速・中型ロボットの代表的なユースケースとして、即時性の低い配送(特に生活道路が中心の住宅街への配送)、無人の移動販売サービスの提供(特に、地方部の買物困難者支援・食品アクセス確保など福祉サービス用途)、中速・中型の活用が適する特性の搬送物のB2B搬送(工場等の私有地間の公道を跨ぐ走行等)が代表的な想定ユースケースとして挙げられています。
そのうえで、諸外国における規制状況も参照したうえで、目指すべき姿の仮説として、以下の内容が提言されています。
- 機体の大きさは、小型ロボット以上、軽自動車未満の範囲6を対象とする。
- 最高速度は20km/hを原則とし、地域・交通環境や安全面を考慮した上で、最高速度を向上させることもあり得る。
- 運行場所は車道(道路の左側によって通行)。具体的な検討においては、道路幅員との関係、他交通主体との速度差、渋滞リスク等を考慮する。
- 最大積載量は、人が乗車しない特性を踏まえた検討が必要であり、少なくとも145kgの積載が考えられる。
- 定格出力は、実際の道路交通環境を踏まえた出力の検討が必要であり、定格出力以外の指標も想定され得る。
- 道路運送車両法上の「道路運送車両」に該当する場合には、関係法令が要求する技術上の最低限の保安基準を満たさなければならず、20km/h未満で走行すること、人が乗車できない機体構造であること、原動機が電動であることなど特有の構造や必要性を踏まえて安全性を確保する必要がある
3. 中速・小型ロボット
中速・小型ロボットの代表的なユースケースとして、即時性の高い配送(特に生活道路が中心の住宅街への配送)や、中速・小型の活用が適する特性の搬送物のB2B搬送(工場等の私有地間の公道を跨ぐ走行等)が代表的な想定ユースケースとして挙げられています。
そのうえで、諸外国における規制状況も参照したうえで、目指すべき姿の仮説として、以下の内容が提言されています。
- 機体の大きさは、遠隔操作型小型車7相当とする。
最高速度は、20km/h(歩道等を除く)を原則とし、地域・交通環境や安全面を考慮した上で、最高速度を向上させることもあり得る。また、通行場所に応じた最高速度の切替も可能とする。 - 運行場所は車道(道路の左側によって通行)。6km/h以下への速度切替により歩道等を通行することも検討余地あり。
- 特定の基準8を満たす小型ロボットは、遠隔操作型小型車と同様の方法で歩道等を通行するなど「中速→低速」と切替を行うことを可能とする。具体的な検討の際は、道路幅員との関係、他交通主体との速度差、渋滞リスク等を考慮する。
- 最大積載量は、最大積載量は人が乗車しない特性を踏まえた検討が必要であり、少なくとも85kgの積載が考えられる。
- 定格出力は、実際の道路交通環境を踏まえた出力の検討が必要であり、定格出力以外の指標も想定され得る。国内製ロボットの海外展開を見据え、国際的調和や部品サプライチェーンの観点も重要である。
- 中速・中型ロボットと同様、道路運送車両法上の「道路運送車両」に該当する場合には、関係法令が要求する技術上の最低限の保安基準を満たさなければならず、20km/h未満で走行すること、人が乗車できない機体構造であること、原動機が電動であることなど特有の構造や必要性を踏まえて安全性を確保する必要がある9。
Ⅳ. 引き続き検討・取組が求められる内容
社会実装の実現に向けて、以下のとおりロードマップが策定されています。
ロードマップでは、実証実験の積み重ねによる「目指すべき姿」の精緻化を短期的に(2025年度~2027年度頃)実現し、関係省庁等との協議を進めていき、精緻化した「目指すべき姿」をベースに、中長期的に(2027年度頃~)、社会実装に向けた具体内容の検討・協議を進めていくことが示されています。
また、以下の検討・取組が特に重要であると述べられています。
- 「自動配送サービス」そのものを確立・普及させるため、既に社会実装が進んでいる低速・小型ロボットの領域において、届出事例の増加、事業採算性の確保、社会への浸透を図ること
- 市場へ参入しようとする各事業者が、短期的に実証実験10を積み重ねることにより、「目指すべき姿」の精緻化に繋がるデータやサービスモデルを、早期に示すこと
- 実証実験を重ねて、どのような機能・水準のインフラが求められるかを見極め、今後の道路都市政策・デジタルインフラ政策等との中長期的な連携を図ること
- 上記の他、運用方法、二段階右折、事故発生時の対処方法、安全性に関する認証主体、非常停止装置の必要性や代替策、付加機能、社会受容性の向上・検証が今後検討の必要な論点として挙げられています。
今後は、ロードマップに沿って速やかに社会実装が進められることが期待されます。
脚注
- 店舗まで500m以上かつ自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者。
- 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「ロジスティクスコンセプト2030」における2020年1月時点での試算。
- 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律71号)。
- 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間。
- 拘束時間は1日原則13時間以内で、延長する場合でも最大15時間(長距離運行は、週2回まで16時間)以内、年3,300時間を超えない範囲内で月284時間以内(但し、労使協定により、年3,400時間を超えない範囲内で月310時間まで延長することが可能。)。
- 2.5m×1.3m×2.0m以下。
- 1.2m×0.7m×1.2m以下。
- 最高速度を6km/hに切替・制御する機能や、外形的に最高速度を認識可能な通行区分識別灯を備えることなどが想定される。
- なお、これまで国内においては中速・小型の実証実験例は無いが、中速・中型と同様に「一般原動機付自転車の保安基準」等に基づいた基準緩和手続を行うことが可能と推測される。
- 実証実験で検証すべき内容の例として、機体本体や通行方法に関する安全性、中速走行に関する運用技術、新しいモビリティに対する社会受容性が挙げられており、実証実験の方法として、道路使用許可(道路交通法77条1項)及び保安基準緩和認定(道路運送車両の保安基準55条及び67条)の手続を経た公道実証を行うことが挙げられています。