〔吉田 瑞穂〕
Healthcare Newsletter
目次
Ⅰ. 医療広告ガイドライン等に関する近時の動向
1. 医療広告ガイドラインQ&Aの改訂及びあはき・柔整広告ガイドライン
厚生労働省は、2025年3月11日、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)に関するQ&Aについて」(平成30年8月10日付厚生労働省医政局総務課事務連絡)(以下「医療広告ガイドラインQ&A」といいます。)を改訂し、そのうち3問を更新しました(Q3-27、Q4-1及びQ5-1)。
Q3-27の更新は、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(2020年4月10日付厚生労働省医政局医事課、同医薬・生活衛生局総務課事務連絡)が、2024年4月1日付で廃止されたこと(「新型コロナウイルス感染症の特例的な財政支援の終了等に伴う関係事務連絡の廃止について」(2024年3月25日付厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部ほか事務連絡)参照)に伴い、当該特例への言及を削除するものです。
Q4-1の更新は、医療広告違反の通報や問い合わせのウェブアドレスの変更を反映するものです。
Q5-1の更新は、2025年2月18日付で、「あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業、きゅう業若しくは柔道整復業又はこれらの施術所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針~あはき・柔整広告ガイドライン~」(厚生労働省)(以下「あはき・柔整広告ガイドライン」といいます。)が策定されたことを踏まえた修正です。
あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業、きゅう業(以下「あはき」といいます。)若しくは柔道整復業(以下「柔整」といいます。)又はこれらの施術所に関する広告は、それらが医業・歯科医業又は病院・診療所等の医療機関等に関する広告ではないことから、医療法の対象ではありません。これら広告には、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下「あはき師法」といいます。)又は柔道整復師法(以下「柔整師法」といいます。)及び関連法令が適用されます(Q5-1)。
あはき師法7条及び柔整師法24条は、あはき及び柔整に関する広告の広告可能事項を限定的に定めており、広告可能とされた事項を除いては広告を禁止しています。また、広告可能な事項であっても、広告に掲載される情報は、利用者の施術所等及び施術内容の選択に資する情報であることを前提とし、その内容については、客観的な評価が可能であり、かつ事後の検証が可能な事項に限られています。あはき・柔整広告ガイドラインは、これら広告規制の行政解釈を示す指針として、医療広告ガイドラインを参考としつつ、その運用の留意事項を定めたものです。
医療広告とあはき及び柔整に関する広告とでは、広告の定義が異なることに留意が必要です。すなわち、医療広告においては、その広告該当性は、「誘引性」と「特定性」の2つの要件を満たすかにより判断されますが、あはき及び柔整に関する広告においては、「誘引性」、「特定性」及び「認知性」の3つの要件を満たすかにより判断されます。医療広告についても、かつては「認知性」(一般人が認知できる状態にあること)の要件が必要とされていましたが、2018年の医療法改正により不要とされました。他方、あはき及び柔整に関する広告に該当するためには「認知性」の要件が必要であることから、インターネット上の施術所等のウェブサイト等は、当該施術所等の情報を得ようとの目的を有する者が、自らURLを入力したり、検索サイトで検索した上で閲覧するものであるため、「認知性」の要件を満たさず、原則として広告とはみなされません。ここでは、医療機関のウェブサイト等も広告とされる医療広告規制とは異なる取扱いがされていることになります。
あはき・柔整広告ガイドラインは、上記取扱いを維持するとしつつも、インターネット等を通じた情報の発信・入手が極めて一般的な手法となっている現状に鑑み、ウェブサイト等の内容の適切なあり方についても定めることで、関係団体等による自主的な取り組みを促すものとしています。
2. 医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)の策定
厚生労働省は、2025年3月11日、「医療広告におけるウェブサイト等の事例解説書」(平成30年8月10日付厚生労働省医政局総務課事務連絡)(以下「医療広告ガイドラインQ&A」といいます。)を改訂し、第5版として策定しました。
当該改訂は、今般、自由診療で行われる再生医療やエクソソーム等に関する誇大広告・虚偽広告の事例や、SNS・動画における広告形態の詳細化や分かりやすい情報提供のあり方の例示について内容を拡充するものです。
具体的には、「科学的根拠が乏しい情報による誘導」(例:「当院で提供する『エクソソーム療法』は、がん細動の増殖や成長、転移を抑制する働きがあることが確認されています。」)や、「『再生医療等提供計画』について誤認させる広告」(例:「再生医療等提供施設として厚生労働省から認可を受けています!」)が誇大広告に該当する旨や、治療等の内容又は効果に関する患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談の広告が禁止される旨が新規事例として挙げられるとともに、複数の事例の更新が行われています。
Ⅱ. 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドラインの改正
1. 新事業活動のガイドラインの改正
厚生労働省及び経済産業省は、2025年3月28日、健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(以下「新事業活動ガイドライン」といいます。)を改正しました1。
新事業活動ガイドラインは、医療・介護分野と関係の深い「健康寿命延伸産業」について、当該事業を実施しようとする事業者が適切に事業を実施できるよう、参考となる基本的な法令解釈や留意事項をまとめたものです。新事業活動ガイドラインは2014年3月31日に公表され、2017年5月30日にも改正されていますが、今回の改正では主に「(3)簡易な検査(測定)を行うケース」について更新がなされており、具体的には、血液や唾液、尿等の検体を測定して体の状態を知ることができる非臨床の消費者向け検査サービスを念頭に、医師法、臨床検査技師等に関する法律、薬機法との関係上、民間事業者が実施することができる行為と実施できない行為の具体例を明示しており、このような検査サービスを実施している又は実施を検討している事業者にとって参考になるものと思われます。
2. 消費者向け検査サービスと医師法の関係
医師法17条は医師のみが「医業」を行うことができる旨を定めています。そのため、医師等でない民間事業者が非臨床の消費者向け検査サービスを行うためには、検査後のサービス提供の内容が、医師法17条にいう「医業」に該当しない範囲で実施される必要があります。今回の改正では、特に検査結果として提示できる範囲に関する説明が追加されており、民間事業者が注意すべきであるとされた点は以下のとおりです。
- 民間事業者は検査結果に基づく疾患のり患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできず、検査後のサービス提供については、検査結果の事実や検査項目の一般的な基準値、検査項目に係る一般的な情報を通知することに留めなければならず、かつ利用者から見て事実や一般的な情報が示されているにすぎないということが客観的に認識可能な通知内容としなければならない。なお、利用者個人に係る疾患のり患リスクに言及することはできない。
- 民間事業者は、検査項目が基準値内にあることをもって、利用者が健康な状態であることを断定するといった利用者個人の健康状態の医学的評価は行ってはならない。
- 民間事業者は、検査項目が基準値外にあることをもって、利用者個人の疾患のり患可能性を提示してはならない。なお、形式的に「これは一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患のり患可能性を通知することは違法となる。
利用者に対して、個別の検査結果を用いて利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行ってはならず、一般論の範囲で行わなければならない。
他方で、今回の改正により適法な事例についても記載が追加されており、以下に該当する検査サービスは適法であることが明確化されました。
- 当該利用者の検査(測定)結果と、医学的・科学的根拠があり、かつ客観的で民間事業者等により恣意的に変動させることが不可能な値(例:統計的に有意であるといえる程度の一定の母集団における平均値や数値分布であって、査読付き論文に依拠している値。これを図示したものも含む。)を、客観的に比較した結果を、医学的・科学的根拠とともに通知する場合。
- 当該利用者の検査(測定)結果が、医学的・科学的根拠があり、かつ客観的で民間事業者等により恣意的に変動させることが不可能な値に基づき設定された疾患のり患や健康状態の医学的評価に係るリスク分類(例:Aランク・Bランク・Cランク、リスク低・リスク高)のいずれに属するかといった、リスク分類との相対的な位置づけを医学的・科学的根拠とともに通知する場合。
上記の記載からは、民間事業者が検査結果に基づいて疾患のり患可能性の提示や診断等の医学的判断を提示しないように特に留意すべきであることが明確に示されたと考えられます。また、利用者が、当該サービスが検査結果に基づき医学的判断をするものであるとの誤解をしないよう、当該サービスは検査結果に基づき疾患のり患可能性の提示や診断等の医学的判断をするものではない旨を通常一般人が無理なく認識可能な方法により記載することが望ましいとも明記されました。
民間事業者が検査サービスで提供可能なサービスの範囲は、引き続き、容易に判断できるものではないものの、今回の新事業活動ガイドラインの改正はその判断の一助になり得るものと思われます。
〔一井 梨緒〕
Ⅲ. 血液検体を用いた検査薬のOTC検査薬への転用に関する議論
厚生労働省の薬事審議会医療機器・体外診断薬部会は、2025年3月14日、「『低侵襲性の穿刺血など血液検体を用いた検査薬』の一般用検査薬への転用等に関するとりまとめ」を公表し、「低侵襲性の穿刺血など血液検体を用いた検査薬」の一般用検査薬への転用について現時点ではまだ時期尚早という方向性を示しました。
規制改革推進会議の提言や政府の基本方針において、セルフメディケーション推進の観点からOTC医薬品・OTC検査薬の拡大に取り組む方針が示されており、厚生労働省としても、医療機関等で用いられる体外診断用医薬品の一部を薬局等で購入可能な一般用医薬品として販売する取組(いわゆるOTC化)を進めてきていました。実際に、現時点において、尿糖・尿タンパク検査、妊娠検査、排卵日予測検査の尿検体を用いる検査薬や近年承認された新型コロナウイルス抗原検査の鼻腔ぬぐい液又は唾液を用いる検査薬等を一般用検査薬として承認されてきました。
特に低侵襲で血液を用いる検査薬(例えば指先穿刺による微量採血)のOTC化については、2021年から2025年にかけて薬事審議会医療機器・体外診断薬部会において計7回の議論が行われ、今回その議論の取りまとめが公表されました。
本とりまとめは、現時点でのOTC化については時期尚早との結論を示し、その理由として安全な自己検査の実現に向け解決すべき課題がなお残存している点を挙げています。解決すべき残された課題としては、概ね、①OTC検査薬を使用する使用者の範囲やその使用目的は、従前の医師の指導のもとで使われていた医療用検査薬とでは異なってくることから、その差異から生じる課題を十分に抽出・整理する必要があることや、②地域の薬局等を中心として適切な情報にアクセスでき、必要に応じて受診勧奨に繋げられるような環境整備と社会体制の構築とその実績が必要であることが挙げられています。
上記のとおり、少なくとも現時点では低侵襲で血液を用いる検査薬のOTC化は見送りされる形となりましたが、本とりまとめでも将来の議論の余地までを否定することは本意ではないと明記されており、示された課題についての追加の検証と整理を、今後厚生労働省を中心としてどのように進められるかについては注視していく必要がありそうです。
〔徳田 安崇〕
Ⅳ. 錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)に係る項目解説及び自己点検表
消費者庁食品衛生基準審査課は、2025年5月2日付で「「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」に係る項目解説及び自己点検表について(周知)」と題する事務連絡を発出し、「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」(以下「GMP指針」といいます。)に係る項目解説及びその自己点検表を公開しました。項目解説及び自己点検表は、消費者庁ホームページにおいても掲載されています。
1. GMP指針
GMP指針は、2024年3月11日、錠剤、カプセル剤等の形状の食品の安全性確保について、「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針(ガイドライン)」とともに発出された指針であり、適正な製造及び品質確保を図る観点から作成されました。同指針においては、事業者が自主的にGMP指針に沿って品質の確保を図ることが期待される、とされています。
GMP指針の対象食品は、天然物、若しくは天然由来の抽出物を用いて、分画、精製、濃縮、乾燥、化学的反応等により本来天然に存在するものと成分割合が異なっているもの又は化学的合成品(以下「天然抽出物等」といいます。)を原材料とする錠剤、カプセル剤等食品であり、対象営業者はこれらを製造又は加工する営業者とされています。その他、輸入業者においては、国内製造の製品と同様の品質の確保を図るよう努めることが期待され、また、上記原材料を製造又は加工する営業者においても、同指針に従った製造工程管理を行うことが望ましいとされています。
2. 項目解説及び自己点検表
GMP指針においては、製品について適正な製造及び品質確保を図るためには、最終製品で不良品が生じる前に、各製造段階において不良品が生じないようなチェックを行うシステムを構築していく必要があるという基本的な考え方をもとに、適切な管理組織の構築及び作業管理(品質管理、製造管理)の実施(GMPソフト)と、適切な構造設備の構築(GMPハード)に分けてガイドラインが示されています。そのうえで、GMPソフトについて、総括責任者等の設置、製品標準書等の整備、原材料の製造管理及び品質管理等14項目及びその細目、GMPハードについて、粉塵等によって製品が汚染されることを防ぐことができること等7項目が遵守すべき事項として挙げられています。
今般作成された項目解説においては、上記各項目について、どのように遵守することが意図されているか等が具体的に記載されており、例えば、「総括責任者は、苦情処理に関する業務及び回収処理に関する業務を適切に行っているか。」という項目に対しては、「以下の業務例について、総括責任者が管理・監督し、確実に実行していることを意図している。」とした上で、業務例として、苦情内容及びその対応に係る記録作成、品質部門における記録の確認、回収に係る都道府県知事への届出(食品衛生法58条)、回収対象ロットの特定、販売先への連絡、対象ロットの回収状況に係る記録作成が挙げられています。
また、自主点検表においては、上記各項目について、点検日、点検者(「当該作業を担当していない第三者」とされています。)、点検結果、不適合事由又は推奨事項、及び確認結果や遵守状況が判断できる客観的根拠を記録することができ、製造管理責任者、品質管理責任者及び総括責任者による確認欄も設けられています。
各事業者においては、上記項目解説や自己点検表も活用しながら、より実効的な品質確保のための取組を行っていくことが望まれます。
〔小俣 香琳〕
Ⅴ. 職場における熱中症対策の強化
2025年4月15日、労働安全衛生規則の一部を改正する省令(以下「改正労働安全衛生規則」といいます。)が公布され、同年6月1日から施行されます。
労働安全衛生法上、事業者は、高温による健康障害を防止するために必要な措置を講じることが義務付けられている(労働安全衛生法22条2号)ところ、改正労働安全衛生規則は、熱中症対策として事業者が講じるべき具体的な措置を規定するものです。
改正労働安全衛生規則において、事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、予め、以下の措置を講ずることとされています(改正労働安全衛生規則612条の2)。なお、ここにいう「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、「WBGT(暑さ指数)28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施が見込まれる作業」を指すことが通達において示される予定です。
① 熱中症に係る報告体制の整備及びその周知
- 作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制の整備
- 作業に従事する者に対する当該体制の周知
② 熱中症の症状悪化防止のために必要な措置の内容及びその実施に関する手順の策定及び周知
- 作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止させるために必要な措置の内容及びその実施に関する手順の策定
- 作業に従事する者に対する当該措置の内容及び実施に関する手順の周知
上記の措置を怠った場合には、労働安全衛生法22条違反として、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働安全衛生法109条1号)。
各事業者においては、今後示される予定の通達等の内容も参照しつつ、改正労働安全衛生規則において求められる熱中症対策を講じる必要があります。
〔川﨑 佑太〕