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目次
Ⅰ. はじめに
2025年3月14日、金融庁は、令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等(以下「本改正案」といい、改正後の金商法施行令案を「本施行令案」、改正後の株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令案を「本大量保有府令案」といいます。)を公表しました。これは、2024年5月15日に成立した令和6年金融商品取引法改正1(以下「令和6年金商法改正」といい、改正後の金商法を「改正後金商法」といいます。)について、関係政令・内閣府令等の整備を行うものです。
本稿では、本改正案のうち大量保有報告制度の見直しに係る改正案について、同時に公表された「株券等の大量保有に関するQ&A」の修正版(以下「本Q&A案」といいます。)の内容も織り交ぜながら、その内容を解説いたします2。
Ⅱ. 企業と投資家の対話の促進に向けた規定の整備等
1. 共同保有者の範囲の明確化
(1)本施行令案の内容
令和6年金商法改正では、中長期的な企業価値向上に資する協働エンゲージメントを促進する観点から、実質的共同保有者の範囲を明確化することを企図し、以下の要件を全て満たす場合には、共同保有者に該当しないものとされました(改正後金商法27条の23第5項)。
① 当該保有者及び他の保有者が金融商品取引業者、銀行その他の内閣府令で定める者であること3
② 共同して重要提案行為等を行うことを合意の目的としないこと
③ 共同して発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することの合意(個別の権利の行使ごとの合意として政令で定めるものに限る。)であること
本改正案は、上記③の合意について、(i)株券等の保有者が当該株券等の発行者が発行する株券等の他の保有者との間で当該発行者の株主総会又は投資主総会ごとにする合意であって、(ii)合意の対象とする当該発行者の株主総会又は投資主総会の議案を他の議案と明確に区別できるよう特定し、(iii)当該議案に対する賛否を定めて、当該保有者及び他の保有者が当該議案について共同して議決権を行使することを内容とするものであることという3つの要件を満たすものであることとしています(本施行令案14条の6の3)。
(2)「個別の権利行使ごとの合意」の要件
本Q&A案問26番では、上記(i)乃至(iii)の要件について、さらに敷衍した説明がなされています。
① (i)の要件
(i)については、株主総会等ごとに合意することが必要であり、例えば「今後5年間のX社株主総会においてAを役員に選任する旨の議案に反対する。」等のように、同一の発行者の複数の株主総会等や将来の株主総会等における議案に関する包括的な合意については、(i)の要件を充足しないとの考えが示されています。もっとも、同一の発行者について、株主総会等ごとに同一の内容の合意をする場合、各合意に至る経緯、各合意の内容、各合意の対象となった株主総会等における各保有者の議決権行使の状況等、個別の事情を踏まえて、包括的な合意かどうか判断されることになります。
② (ii)の要件
(ii)については、例えば、「Ⅹ社2025年度定時株主総会における第1号議案」、「Ⅹ社2025年度定時株主総会における取締役選任議案のうち、候補者Aの選任議案」というように議案が一意に定まる程度に特定されていれば、通常、これを満たすものと考えられる一方で、「組織再編に関する議案」といった程度では議案が一意に定まらないため、「他の議案と明確に区別できるよう特定」したとは認められないとされています4。
③ (iii)の要件
(iii)については、合意の対象となる議案に対する「賛成」「反対」のいずれかを定めて合意することが必要であり、例えば、議案に対する賛否を「保有者Bの判断に委ねる」というように賛否を一任する合意や、形式上は賛否を定めていても、各保有者における議案の賛否についての検討過程その他の合意に至る経緯、合意の内容等、個別の事情を踏まえ、実質的に一部の保有者に一任していると認められる場合には、(iii)の要件は満たさないとされています。
2. 重要提案行為の範囲の明確化
(1)本施行令案の内容
日常の営業活動等において反復継続的に株券等の売買を行っている金融商品取引業者等については、一定の要件の下、特例報告制度の利用が認められているところ、金商法上、特例報告制度の利用要件として、「重要提案行為等」を行うことを保有の目的としないことが求められています。金融商品取引業者等については、保有の目的に「需要提案行為等」を行うことが含まれる場合には、特例報告制度を利用できないこととなるため、「重要提案行為等」の範囲については、企業と投資家の実効的なエンゲージメントの促進の観点から、更なる明確化又は限定が必要との指摘がなされていました。
このような経緯のもと、本施行令案においては、「重要提案行為等」として、「役員の選任」(特定の者を指名して行う場合に限る)が追加され(本施行令案14条の8の2第1項4号)、「支配人その他の重要な使用人の選任又は解任」及び「支店その他の重要な組織の設置、変更又は廃止」が削除されました。
(2)重要提案行為等の該当性の検討
本Q&A案問36番では、「重要提案行為等」に該当するためには、以下の(ⅰ)~(ⅲ)の要件を全て満たす必要があるとされています。
(i)発行者(又はその子会社)に対する「提案」行為であること
(ii)提案内容が本施行令案第14条の8の2第1項各号に掲げる事項に該当すること
(iii)提案行為が発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼすことを目的とすること
その上で、株券等保有割合が5%を超える機関投資家が、発行者との間で次の行為を行うことが「重要提案行為等」に該当するかについて、以下の考えが示されています。
① 発行者の経営方針等(ガバナンス、資本政策、経営陣の選解任・指名、株主還元等に関する方針を含む)の説明を求める行為 |
この行為は、単に発行者の経営方針等の説明を求めるのみであり、発行者に対する「提案」行為ではないため、上記(i)の要件を満たさず、「重要提案行為等」には該当しないとされています。
② 自らの議決権行使方針、当該方針を踏まえた発行者に対する具体的な議決権行使の予定、保有株式の保有・処分方針等を説明する行為 |
上記①と同様に、議決権行使方針や当該方針を踏まえた具体的な議決権行使の予定等を説明するにとどまり、発行者に対する「提案」行為ではないため、上記(i)の要件を満たさず、「重要提案行為等」には該当しないとされています5。
③ 政策保有株式の売却を求める行為 |
本施行令案14条の8の2第1項1号の「重要な財産の処分」の該当性が問題となりますが、具体的な銘柄を指定することなく抽象的に発行者が保有する政策保有株式の売却を求める提案は「重要な財産の処分」に該当しないとされています。また、発行者が政策保有株式として保有する個別銘柄の売却を求める場合においては、当該政策保有株式の帳簿価額、発行者の総資産に占める割合、当該政策保有株式の保有目的等に照らして総合的に判断する必要があるものの、政策保有株式の性質からすれば、通常は、「重要な財産の処分」の提案には該当しないとされています。
④ 代表取締役の後継者計画や指名方針の変更を求める行為 |
これらの行為は、通常は「代表取締役の選定・解職」(同項3号)、「自ら又は自らが指定する者の選任に係る役員の選任」(同項4号)、「役員構成の重要な変更」(同項5号)の提案には該当しないものの、当該提案が実質的に代表取締役の解職や役員の変更を求めるものである場合には、上記各号の行為に該当する可能性があるとされています。
⑤ コーポレートガバナンス・コードの原則をコンプライ(実施)するために必要な範囲で、独立社外取締役の増員を求める行為 |
例えば、独立社外取締役を増員することでコーポレートガバナンス・コードの原則をコンプライ(実施)することができる場合において、具体的な候補者を提示することなく、コーポレートガバナンス・コードの原則をコンプライ(実施)するために必要な増員を求めるにとどまる場合には、通常、「自ら又は自らが指定する者の選任に係る役員の選任」(同項4号)や「役員構成の重要な変更」(同項5号)の提案には該当しないとされています。本Q&A案における上記記載に鑑みれば、具体的な候補者を示した上で役員選任を求める場合には、上記各号の行為に該当する可能性があると考えられる点に留意が必要です。
⑥ 事業ポートフォリオの見直しを求める行為 |
事業の譲渡、譲受け、休止又は廃止を伴う事業ポートフォリオの見直しを求める行為は、一般に「事業の譲渡、譲受け、休止又は廃止」(同項7号)に該当すると考えられます。もっとも、発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす目的がない場合には、上記(ⅲ)の要件を満たさず、「重要提案行為等」には該当しないとされています。
また、上記(iii)の要件について、本Q&A案問36番では、本施行令案14条の8の2第1項各号に掲げる事項を、以下のとおり類型的に「発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼすことを目的とする」ものに該当する可能性が高いものとそのような可能性が低いものに分類しています。
相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が高い事項 | 相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が低い事項 |
・代表取締役・代表執行役の選定・解職又は執行役員の選解任(3号) ・自ら又は自らが指名する者の役員への選任(4号) ・事業の譲渡、譲受け、休止又は廃止(7号)のうち発行者の主要な事業の譲渡、休止又は廃止 ・解散(12号、大量保有府令6 16条2号) ・破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立て(12号、大量保有府令16条3号) ・第三者による支配権の取得(12号、本大量保有府令案16条4号) | ・本施行令案14条の8の2第1項各号に掲げる事項のうち、左記に記載された事項以外 ※当該提案の採否を発行者の経営陣の自律的な決定に委ねない方法・態様により提案を行う場合7には、当該提案は事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を与えることを企図していると考えられます。他方、例えば、発行者から特定の議題について意見を求められ、株主がこれに応えて受動的に自身の意見を陳述する場合には、上記(iii)に該当する可能性は低くなるものと考えられています。 |
以上はあくまで類型的な分類であり、個別具体的な事情を加味して「発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼすことを目的とする」と言えるかを判断する必要がありますが、本Q&A案問36において、「相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が高い事項」は、それが実現した場合には発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼすこととなること、「相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が低い事項」は、発行者との対話の場で提案しても、通常は経営陣に対して当該事項の検討を求め、その採否を発行者の経営陣の自律的な決定に委ねる趣旨であると考えられ、直ちに発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を与えることを企図しているものとは考え難いことが、理由とされており、かかる観点は、個々の事案における具体的な判断に際しての一つの指針として参考となると考えられます。
なお、「株券等保有割合が10%を超えることとなる株券等の取得」を行う目的がある場合には、特例報告制度の適用がないところ(金商法27条の26第1項、本大量保有府令案13条3号)、「株券等保有割合が10%を超えることとなる株券等の取得」を行うことを示唆して提案を行う場合、当該提案の段階で、「株券等保有割合が10%を超えることとなる株券等の取得」を行う目的を有していると考えられる可能性があるとされています。
Ⅲ. 現金決済型エクイティ・デリバティブ取引に関する規定の整備
(1)「保有者」となる要件の明確化
令和6年金商法改正では、株券等の「保有者」に関して、新たに3号保有者を追加し、現金による決済が予定されているデリバティブ取引のうち、①株券等に係るデリバティブ取引に係る権利を有する者であり、②当該デリバティブ取引の相手方から株券等を取得する目的その他政令で定める目的を有する者は、③当該デリバティブ取引の原資産である株券等の数を算出する計算方法として内閣府令で定める計算方法8により算出された数の株券等について、3号保有者として大量保有報告書の提出義務の対象とするものとされていました(改正後金商法27条の23第3項本文及び3号)。
本施行令案では、上記②に関して、「その他政令で定める目的」の内容を規定するものであり、以下の(i)及び(ii)のいずれかの目的を有する場合にも、②の要件を満たすことになります(本施行令案14条の6第2項)。
(i)発行者に対してデリバティブのポジションを示して重要提案行為等を行う目的
(ii)デリバティブ取引の相手方が保有する議決権に影響を及ぼす目的
現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引であっても、潜在的に発行者の経営に対する影響力を有している場合を捕捉することが今回の改正の趣旨であるため、当該デリバティブ取引のロングポジションを取得した時点で、当該株券等から生じる経済的な利益を享受する目的のみを有している場合には当該株券等の「保有者」には該当しませんが、ロングポジション取得後に上記②の目的を有するに至った場合には、その時点で当該株券等の「保有者」に該当すると考えられます9。
(2)保有株券等の数の計算方法
上記③に関して、金商法2条21項各号で定める市場デリバティブ取引の類型に応じた株券等の数の算出方法が規定されました。詳細は本大量保有府令案3条の3各号に規定されていますが、概ね、以下の計算方法となっています。
取引の種類 | 保有株券等の数 |
当事者があらかじめ金融指標として約定する数値(約定数値)と、将来の一定の時期における現実の当該金融指標の数値(現実数値)の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引 | 約定数値と現実数値との差を乗ずることにより授受を約する金銭の額が算出される値又はこれに類似する値 (授受を約する金銭)=X×(約定数値と現実数値の差) |
当事者が元本として定めた金額について、当事者の一方が相手方と取り決めた金融商品の利率等又は金融指標の約定期間における変化率等に基づいて金銭を支払う取引 | 当該取引における変化率の算出に係る約定期間の開始時の当該金融商品の利率等若しくは金融指標と当該約定期間の終了時の当該金融商品の利率等若しくは金融指標との差を乗ずることにより授受を約する金銭の額が算出される値又はこれに類似する値 (授受を約する金銭)=X×(約定期間の開始時の当該金融商品の利率等若しくは金融指標と当該約定期間の終了時の当該金融商品の利率等若しくは金融指標との差) |
その他のデリバティブ取引 | 0 |
Ⅳ. みなし共同保有者の範囲の見直し
本改正案は、故意による大量保有報告書の不提出や著しい提出遅延に積極的に対応すべく、立証の困難性を解決するため、みなし共同保有者の範囲を調整しています。
具体的には、金商法27条の23第6項の「特別の関係」について、以下のとおり改正することとしています(本施行令案14条の7第1項、本大量保有府令案5条の3)。
本改正案 | 現行 |
(削る)10 | 夫婦の関係 |
その株券等の保有者が会社に対して当該会社の総株主等の議決権の数の50%を超える数の議決権に係る株式又は出資を自己又は他人(仮説人を含む)の名義をもって所有する関係を有する場合における当該株券等の保有者(「支配株主等」)と当該会社(「被支配会社」)との関係 | 会社の総株主等の議決権の50%を超える議決権に係る株式又は出資を自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもって所有している者(「支配株主等」)と当該会社(「被支配会社」)との関係 |
被支配会社とその支配株主等の他の被支配会社との関係 | 同左 |
財務諸表等規則第8条第3項に規定する子会社(組合に限る)とその親会社との関係 | 同左 |
会社と当該会社の代表者等(当該会社を代表する役員及び当該会社による株券等の取得、処分又は管理に係る業務を執行する役員をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、当該会社に対しこれらの役員と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む)との関係 | (加える) |
会社の代表者等が他の会社の代表者等である場合における当該会社と当該他の会社との関係 | (加える) |
株券等を取得するための資金を供与した者と当該資金の供与を受けた者との関係(当該資金を供与した者が、当該資金の供与を受けた者に対し、当該資金を充ててその保有する株券等の発行者が発行する株券等を取得することの要請(次に掲げるものを除く)をした場合に限る。) イ 投資一任契約その他の契約又は法律の規定に基づき、株券等に投資をするのに必要な権限に基づく指図 ロ 金融商品取引業者(投資運用業を行う者に限る)、特例業務届出者又は海外投資家等特例業務届出者に対して投資運用業として当該株券等の取得を行うことを要請するもの ハ 金商法施行令第1条の8の6第1項各号に掲げる行為(金融商品取引業から除かれるもの)として当該株券等の取得を行うことを要請するもの ニ 信託会社等に対して信託業務として当該株券等の取得を行うことを要請するもの ホ 外国の法令に準拠して外国において投資運用業又は信託業を営む者に対して投資運用業又は信託業として当該株券等の取得を行うことを要請するもの ヘ 金商法施行令第1条の3の3第5号11又は第6号12に掲げる権利を有する者が当該権利に係る契約に基づく買付けとして当該株券等の取得を行うことを要請するもの | (加える) |
株券等を取得することの要請をした者と当該者に当該株券等を譲渡する目的をもって当該要請に基づいて当該株券等を取得した者との関係 | (加える) |
重要提案行為等を行うことの要請(投資一任契約その他の契約又は法律の規定に基づき、株券等に投資をするのに必要な権限に基づく指図を除く。)をした者と当該要請に基づいて当該重要提案行為等を行った者との関係 | (加える) |
V. 大量保有報告書の記載事項の明確化等
本改正案では、上記改正に合わせて、大量保有報告書の「保有目的」欄や「担保契約等重要な契約」欄等の記載事項の明確化、共同保有者間で引渡請求権等が存在する場合の株券等保有割合の計算方法の適正化等、大量保有報告書の様式の見直しが行われています。これらの改正により、悪質な事案においては、記載の具体性を欠いたこと等を理由に、訂正報告書の提出や課徴金の納付等を求められる可能性があります。
大量保有府令1号様式の改正内容は以下のとおりです。
本改正案 | 現行 |
⑽ 保有目的 a 「純投資」、「政策投資」、「重要提案行為等を行うこと」等の目的及びその内容について、できる限り具体的に記載すること。複数ある場合にはその全てを記載すること。 b 重要提案行為等(法第27条の26第1項に規定する重要提案行為等をいう。b、⑾及び⒁aにおいて同じ。)を現に行い、又は行うことを予定している場合には、その内容(例えば、当該重要提案行為等の具体的な内容、当該重要提案行為等を行う時期、当該重要提案行為等を行う条件、当該重要提案行為等の目的)について、できる限り具体的に記載すること。複数ある場合にはその全てを記載すること。 c 株券等保有割合を100分の5を超える割合増加させる行為(保有株券等の総数を増加させない行為を除く。)を行うことについての決定(報告書の提出者が法人である場合にあっては、その業務執行を決定する機関の決定)をしている場合には、その内容(例えば、取得を行う株券等の種類、時期、取得価格、数量、取得の目的、取得の方法、取得の相手方)をできる限り具体的に記載すること。大量保有報告書の提出又は株券等保有割合の増加を提出事由とする変更報告書の提出をする場合であって、これらの報告書の提出義務が発生した日から3月以内に株券等保有割合を100分の5を超える割合増加させる行為(保有株券等の総数を増加させない行為を除く。)を行うことを予定している場合も、同様とする。 (略) | ⑽ [同左]
(略) |
⒁ 当該株券等に関する担保契約等重要な契約 a 株券等に関する売買契約(契約を締結した日から5日以内に受渡しを行うものを除く。)、貸借契約、担保契約(提出者が担保権者であるものを除く。)、オプションに係る契約、売戻し契約、売り予約、買戻し契約、買い予約、次に掲げる合意その他の将来の株券等の移動に関する重要な契約又は取決めがある場合には、その契約の種類(貸借契約の場合には、貸借の別を含む。)、契約の相手方、契約の対象となっている株券等の数量等当該契約又は取決めの内容を記載すること。なお、当該契約の相手方と締結している契約の対象となっている株券等の数を第9条の2第1項に規定する発行済株式総数等で除して得た割合が100分の1未満である場合における当該契約の相手方の記載に当たっては、相手方の属性のみを記載しても差し支えない。また、第11条第4号に規定する金融商品取引業者等(重要提案行為等を行うことを保有の目的とする者を除く。)がその業務に関して顧客との間で締結する契約の記載に当たっては、その契約の種類ごとに、契約の相手方の数、契約の対象となっている株券等の数量の合計のみを記載しても差し支えない。 ⒜ 当該提出者による株券等の譲渡その他の処分について当該契約の相手方の事前の承諾を要する旨の合意 ⒝ 当該提出者が一定の株券等保有割合を超えて株券等を保有することを制限する旨の合意 ⒞ 株券等の発行その他の行為が当該提出者の株券等保有割合の減少を伴うものである場合に、当該提出者がその株券等保有割合に応じて当該株券等を引き受けることができる旨の合意 ⒟ 契約が終了した場合に、当該契約の相手方が当該提出者に対しその保有株券等を当該契約の相手方(当該契約の相手方が指定する者を含む。)に売り渡すことを請求することができる旨又は当該提出者が当該契約の相手方に対しその保有株券等を当該提出者(当該提出者が指定する者を含む。)に売り渡すことを請求することができる旨の合意 ⒠ 契約が終了した場合に、当該契約の相手方が当該提出者に対しその保有株券等を買い取ることを請求することができる旨又は当該提出者がその保有株券等を当該契約の相手方に対しその保有株券等を買い取ることを請求することができる旨の合意 b 報告書の提出者が、法第27条の23第3項第3号に該当する者である場合には、当該デリバティブ取引の種類、相手方、決済日又は権利行使期間若しくは取引期間等当該デリバティブ取引の内容を記載すること。なお、当該取引の相手方と締結している契約の対象となっている株券等の数を第9条の2第1項に規定する発行済株式総数等で除して得た割合が100分の1未満である場合における当該取引の相手方の記載に当たっては、相手方の属性のみを記載しても差し支えない。 c 報告書の提出者が、発行者が発行する株券等の他の保有者(提出者と令第14条の7第1項各号に掲げる関係にある者を除く。)と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合には、当該合意の内容を記載すること。 d 報告書の提出者(発行者の完全親会社(会社法第847条の2第1項に規定する完全親会社をいう。)を除く。)と発行者(当該発行者が子会社の経営管理を行う業務を主たる業務とする会社である場合にあっては、当該発行者又はその連結子会社(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和51年大蔵省令第28号)第2条第4号に規定する連結子会社をいう。)。dにおいて同じ。)との間で次に掲げる合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合には、当該契約の概要(当該契約を締結した年月日及び当該合意の内容を含む。)及び当該合意の目的を具体的に記載すること。 ⒜ 当該発行者の役員について候補者を指名する権利を当該提出者が有する旨の合意 ⒝ 当該提出者による議決権の行使に制限を定める旨の合意 ⒞ 当該発行者の株主総会又は取締役会(当該発行者が投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律第2条第12項に規定する投資法人をいい、同条第25項に規定する外国投資法人を含む。)の場合にあっては、投資主総会又は役員会)において決議すべき事項について当該提出者の事前の承諾を要する旨の合意 e 株券等を組合若しくは社団等の業務執行組合員等として保有している場合又は共有している場合等には、その旨記載すること。 (略) | ⒁ [同左]
(略) |
⒆ 上記共同保有者の保有株券等の内訳 a 共同保有者がいる場合に、提出者が了知している範囲で、「第2 提出者に関する事項」の「⑷ 上記提出者の保有株券等の内訳」に準じて記載すること。 b この場合において、「共同保有者間で引渡請求権等の権利が存在するものとして控除する株券等の数」欄には、共同保有者が保有者又は他の共同保有者に対して令第14条の6の2各号に掲げる権利を有する株券等の数を記載すること。 | ⒆ [同左] 共同保有者がいる場合に、提出者が了知している範囲で、「第2 提出者に関する事項」の「⑷ 上記提出者の保有株券等の内訳」に準じて記載すること。 |
Ⅵ. おわりに
本改正案により、今回の大量保有報告制度の見直しの詳細部分が明らかにされました。本改正案においてはが、共同保有者の範囲の明確化、特例報告制度の利用のための要件である「重要提案行為等」の範囲の明確化等、今後のエンゲージメント活動にも影響を及ぼし得る重要な改正が含まれており、また、デリバティブ取引に係る権利を有する一定の者が新たに「3号保有者」として大量保有報告書の提出義務の対象となったほか、みなし共同保有者の範囲や大量保有報告書の1号様式の記載事項に実質的な変更が生じる改正が含まれています。本改正案の適用により、従来とは異なる新しいルールに基づいて、大量保有報告書又は変更報告書の提出義務の有無を判断し、また、報告書の記載内容を検証する必要が生じるなど、実務に非常に大きな影響が生じることが予想されます。エンフォースメントの強化に関する提言もされていることも併せ鑑みれば、本改正後における大量保有報告制度の解釈や実際の報告書の作成・提出にあたっては、必要に応じて法律専門家とも相談しつつ、慎重に進めていくことが肝要となるものと思われます。また、本改正案はパブリックコメントによりその内容が変更され、また本改正案の解釈に関する金融庁の見解が示される可能性があります。本改正に伴う経過措置については現時点で明らかではありませんが、本改正の適用により生じる株券等保有割合や共同保有者の増減に係る変更報告書の提出の要否及び提出期限等が具体的にどのように整理されるか等、今後の動きに引き続き注視が必要です。
脚注
- 令和6年金商法改正の概要については、当事務所ニュースレター「令和6年金融商品取引法等改正案―大量保有報告制度の見直し―」(2024年5月)もご参照ください。
- なお、本改正案は2025年4月13日までパブリックコメントが行われており、その結果を踏まえて修正される可能性があります。
- 本大量保有府令案5条の2の2では、金融商品取引業者、銀行、信託会社、保険会社、農林中央金庫及び株式会社商工組合中央金庫、並びに外国の法令に準拠して外国において第一種金融商品取引業、投資運用業、銀行業、信託業又は保険事業を営む者が規定されており、大量保有府令11条で定める特例報告制度を利用できる者のうち第1号及び第2号に定める者と一致しています。
- 合意の対象となる議案の個数に限定はなく、複数の議案について合意する場合であっても、個々の議案がそれぞれ特定されていれば、(ii)の要件を充足すると考えられます(本Q&A案問26)。
- もっとも、発行者に対する説明が、実質的に発行者に対して本施行令案14条の8の2第1項各号の行為を求めるものである場合には、「重要提案行為等」に該当する可能性があります。
- 株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令
- (a)株主提案権の行使による場合、(b)発行者の同意を得ることなく提案内容を公表する場合(いわゆるキャンペーン)、(c)提案内容を実行しない場合には株主提案権の行使、キャンペーンや委任状勧誘を行うことを示唆して提案を行う場合等
- 本大量保有府令案3条の3各号において、各取引の区分に応じて計算方法が定められました。
- 本Q&A案問14番
- 「特別の関係」から夫婦の関係が削除されることに伴い、金商法施行令14条の7第2項も削除される予定です。
- 有価証券とみなさなくても公益等のため支障を生ずることがないと認められる権利のうち、株券又は投資証券の発行者の役員等が当該発行者の他の役員等と共同して当該発行者の株券又は投資証券の買付けを、一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に行うことを約する契約のうち、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」といいます。)6条2項で定める要件に該当するものに基づく権利をいう。
- 有価証券とみなさなくても公益等のため支障を生ずることがないと認められる権利のうち、定義府令7条が定める出資対象事業に係る収益の配当等を受領する権利から除かれるものをいう。