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規制改革推進に関する答申~地方の移動の足不足の解消に関する意見等について~

Ⅰ. はじめに

2025年5月28日、規制改革推進会議から「規制改革推進に関する答申」1(以下「本答申」といいます。)が発表されました。

本答申は、昨年の答申2発表後の状況、検討を踏まえ、改めて、人口減少、少子高齢化等の課題を克服し、地方の活性化に繋げるための施策についての審議結果を取りまとめたものです。

本号では、本答申で取りまとめられた規制改革項目のうち、主として地方の移動の足不足の解消に関する施策、特に自家用車活用事業(いわゆる「日本版ライドシェア」)3に関して今後実施が予定されている措置の内容(Ⅱ.)、乗合タクシー等の参入の円滑化を図るために今後実施が予定されている措置の内容(Ⅲ.)、並びにその他の施策(レベル4の自動運転タクシー等の実装加速、自家用有償旅客運送制度の改善、自動車運送事業における運行管理業務の効率化、ロボット農機の公道走行制度化)に関する措置の内容(Ⅳ.)について解説します。

Ⅱ. 自家用車活用事業

1. 自家用車活用事業の現状と課題

本答申に際して行われた内閣府及び国土交通省が行った調査によると、自家用車活用事業により一定程度の移動の足不足解消の効果が出ているものの、特に規模の小さい地方公共団体や、市の中心部や最寄りの公共交通機関の駅から距離が遠い地域では、依然として移動の足不足の問題があると指摘されています。

下記では、この現状を踏まえて今後実施が見込まれる措置について説明します。

2. 今後の措置

(1)自家用車活用事業の稼働日・時間帯の拡大に係る申出主体の追加
配車アプリが普及していない地域では、タクシー事業者又は地方公共団体からの申し出があり、管轄の地方運輸局等が必要と認める場合には、自家用車活用事業の稼働できる曜日・時間帯を拡大することができるとされています。

本答申では、地域の住民のニーズに応じた自家用車活用事業の活用の観点から、新たに、地方公共団体、公共交通事業者、地域公共交通の利用者等が参画する協議会4において協議が整った場合には、かかる協議結果に基づく申し出を踏まえて、自家用車活用事業が稼働できる営業区域等を拡大することができるよう、必要な措置を講ずることとしています。

(2)柔軟な運賃設定を可能にすること
自家用車活用事業の運賃については、道路運送法9条の3第3項に基づき協議会による協議が調った場合には、需要に応じて一定の範囲内で変動させる、いわゆるダイナミックプライシングの導入も含め、地域の実情に応じた運賃設定を可能にできるよう必要な措置を講じるとされました。

(3)バス・鉄道事業者によるライドシェア事業への参画
バス・鉄道事業者による自家用車活用事業への参画については、トライアルを行い、その結果を踏まえてこれらの者による当該事業への参画に向けて、タクシー事業許可取得に係る要件の緩和や明確化も含め、制度改正やガイドライン整備等の所要の措置を講ずるとされています。

(4)事業者間遠隔点呼及び業務前自動点呼の運用の明確化
現在、タクシー事業者の運行管理業務の効率化の観点から、事業者間遠隔点呼・業務前自動点呼の実証が行われているところ、自家用車活用事業における運行管理においても同様の効率化を図るべく、これらの点呼について、自家用車活用事業を含め本格実施に円滑に移行できるよう運用の明確化を行うこととされていました。

(5)実態調査及び今後の議論
上記(1)から(3)までの措置は2025年度中、(4)は2025年中に行うことが予定されているところ、今後もスピード感をもって自家用車活用事業に関する施策が実施されていくと考えられるため、その動向には引き続き注視が必要となります。

Ⅲ. 乗合タクシー等の参入円滑化

1. 乗合タクシー等の意義と課題

路線バスや乗合タクシー等の一般乗合旅客自動車運送事業のうち、路線不定期運行及び区域運行の実施に際しては、定期運行している路線との整合性のため、現行の処理方針では、「明らかに路線定期運行との整合性をとる必要がない場合」を除き、地域公共交通会議等5で協議が調っていることが求められています。しかし、多くの地域公共交通会議等が市町村単位で開催されていることから、複数の地方公共団体を跨いで事業を始めようとすると、複数の会議の調整が必要となるほか、会議の設置されていない地域もあり、協議を調えることが新規参入の障壁となっています。

また、現行の処理方針細部取扱では、協議を不要とする例外要件である「明らかに路線定期運行との整合性を取る必要がない場合」として、「空港アクセス型、観光需要対応型等の輸送形態」で「路線定期運行では困難な需要に対応する」ものが該当すると示されているものの、要件が具体化されていないことから、当該要件についての判断が地方運輸局ごとに異なっており、これも新規参入の障壁となっているという声が挙げられていました。

2. 今後の措置

(1)協議を不要とする例外要件の判断基準の明確化
国土交通省は、「明らかに路線定期運行との整合性を取る必要がない場合」の該当性について、地方運輸局における判断の客観性・統一性を担保するため、判断基準の明確化について、当該地域における同時間帯の他の公共交通手段の有無や料金設定等を考慮の上検討を行い、結論を得次第、所要の措置を講ずるとされています。

(2)複数の地方公共団体を超える場合の協議の円滑化を図る措置
国土交通省は、空港アクセス型又は観光需要対応型の輸送形態により、複数の地方公共団体を越えて実施される路線不定期運行又は区域運行の一般乗合旅客自動車運送事業であり、地域公共交通会議等における協議が必要となる場合について、当該協議の円滑化を図るため、以下の①及び②について検討し、結論を得次第、通知等で明確化した上で地方公共団体等に対して周知するとされています。

①当該運行地域において一つの協議会で協議を調えることが可能な既存の協議会が存在する場合、当該協議会が地域交通協議会等に代替できるようにすること。

②既存の協議会が存在しない場合、一つの協議会で協議を調えることができるよう、当該地域を管轄する地方運輸局が協議会の構成員その他協議会の設置・開催に必要な事項を各地方公共団体に提案すること。

(3)標準処理期間の設定及び周知
国土交通省は、路線不定期運行又は区域運行の実施の申請があった場合について、地域公共交通会議等での協議の要否(1か月以内)及び協議の開催(2か月以内)の標準処理期間を定め、通知等で明確化し、地方公共団体等に周知し、適切な処理の有無について調査・公表し、改善の必要がある場合は所要の措置を講ずるとされています。

(4)今後の議論
上記(1)、(2)及び(3)の通知等による明確化及び周知に関する措置は2025年上期、(3)の調査及び改善の必要がある場合の所要の措置は2026年上期に行うことが予定されており、その動向には引き続き注視が必要となります。

Ⅳ. その他の施策について

1. レベル4の自動運転タクシー等の実装の加速に向けて講ずるべき措置

地域における足不足や担い手不足の課題への重要な対応策でもあるレベル4自動運転について、本答申では、自動運転ワーキンググループ及び自動運転の拡大に向けた調査検討委員会が公表した中間とりまとめ6に示された方向性を踏まえて、それぞれ①自動運転車の安全確保に関するガイドラインの具体化(国土交通省)、②事故原因究明体制の構築についての法制度の整備も視野に入れた検討(国土交通省)、及び③自動運転車の開発に資する交通ルールの解釈の明確化等について開発者と意見交換する枠組みの設置(警察庁)を行うこととされています。

また、警察庁、経済産業省、国土交通省は、自動運行装置に係る走行環境条件付与及び特定自動運行の許可に係る審査について、引き続き、審査内容や手続等の明確化、審査項目に係る重複の排除等、手続の透明性・公平性を確保するために必要な取組を実施することとされています。

2. 自家用車有償旅客運送制度の改善

昨年の答申では、自家用有償旅客運送制度について、関係法令や通達に定められていない独自の基準(ローカルルール)について、客観的な根拠に基づかないものについては認められない旨が明確化されていたところ、引き続き当該措置を継続し、客観的な根拠に基づかないものについては見直し、客観的な根拠に基づくものについても、適時適切な見直しが行われるように地方公共団体に求めていくこととされています。

3. 自動車運送事業における運行管理業務の効率化

自動車運送事業における業務効率化・生産性向上の観点から、ICTの活用を前提とした運行管理者の必要数、運行管理者による他の営業所の運行管理者又は補助者の兼務の可否、補助者による実施可能な点呼の総回数について、実証実験も踏まえ検討することとされています。また、ICTの活用による情報共有等が可能な状況であることが確認されている遠隔点呼を実施する自動車運送事業者について、遠隔点呼と併用して、異なる営業所間・事業者間における対面点呼を可能とするための必要な措置を講ずるとされています。

4. ロボット農機の公道走行制度について

圃場内等に限って走行が認められているロボット農機について、農道や公道でも走行ができるようにする取組として、大型特殊自動車及び小型特殊自動車にも自動運行装置を備えることができるよう保安基準が改正されたほか、道路使用許可を得ることで公道実証実験が可能になっていることの周知・適切な道路使用許可の運用が行われてきました。

今後は、農林水産省が、公道走行の実現を見据えてガイドラインを改定するとともにロボット農機の実証事業の結果報告を行うほか、各省庁が協力を図りながら、ロボット農機について公道走行が可能となるための施策を講じていくものとされました。

Ⅴ. 終わりに

本答申では、自家用車活用事業におけるダイナミックプライシングの導入の検討やバス・鉄道事業者の参画の検討など、自家用車活用事業の更なる活用を進めるための措置が示されており、今後の展開を注視していく必要があります。

移動の足不足に対しては、自家用車活用事業、自家用有償旅客運送制度、乗合タクシー、デマンド交通など様々なアプローチが整備されてきているものの、依然として移動の足不足は存在し、規模の小さい地方公共団体等において特にその状況は深刻であるとの指摘もあるところ、本答申に示された施策が適切に実施されていくことに加えて、引き続き幅広い要望を掘り起こしつつ、移動の足不足の解消に向けた施策について、今後さらに充実した議論・検討がなされることが期待されます。

  1. https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/250528.pdf
  2. 昨年の答申については、Automotive Newsletter 2024年6月号(Vol.24)にて解説しています。
  3. 自家用車活用事業(日本版ライドシェア」の概要については、Automotive Newsletter 2024年4月号(Vol.23)をご参照ください。
  4. 地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成19年法律59号)6条に基づく協議会をいいます。
  5. 地域公共交通会議又は道路運送法施行規則9条2項に規定する協議会をいいます。
  6. 自動運転ワーキンググループは、2025年5月に「自動運転ワーキンググループ 中間とりまとめ」を公表しています。当該とりまとめについては、Automotive Newsletter 2025年6月12日号(Vol.31)をご覧ください。
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