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Automotive Newsletter

「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会」報告書について

Ⅰ. はじめに

本号では、2025年4月30日に、国土交通省物流・自動車局より公表された「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会 報告書1」(以下「本報告書」といいます。)の内容をご紹介します。

既に、当面の過渡期を想定して、レベル4までの自動運転における自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)上の損害賠償責任については、2018年3月に一定の整理2がされていました。その後、特定自動運行に係る許可制度が創設され、旅客自動車運送事業者等が特定自動運行実施者と共同で旅客運送を行う新たなビジネスモデルが検討されているため、改めて新たなビジネスモデルにおける自賠法上の損害賠償責任について検討することとなりました。

なお、本検討会での検討は、2024年5月31日付「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」報告書3において、改めてレベル3及びレベル4の普及期における運行供用者責任について整理することが求められるとしていたものを受けたものでもあります。

Ⅱ. 本報告書の概要

新たなビジネスモデルにおいて、複数の主体が共同で旅客運送を実施する場合の自賠法上の損害賠償責任について検討が行われ、検討したいずれのビジネスモデルにおいても、旅客自動車運送事業者等の運送主体が運行供用者に該当すると整理することが適切であるとされています。

Ⅲ. 新たなビジネスモデルにおける自賠法上の「運行供用者責任」について

1. 「運行供用者責任」について

自賠法上の損害賠償の責任主体となる運行供用者とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」をいい4、「自己のために」とは、自動車の運行についての支配権(以下「運行支配」といいます。)とそれによる利益が自己に帰属すること(以下「運行利益」といいます。)を意味するとされています。

通常は「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供する者」である自賠法上の「保有者」5が運行供用者に該当するとされています。そこで、新たなビジネスモデルにおける運行供用者の判断に際しても、その者が「保有者」に該当するか、すなわち、運行支配及び運行利益があるかということを要素として検討することが適当であると整理されました。

なお、有人タクシーやバスにおけるドライバーは、「他人のために自動車の運転」をする者(「運転者」)であり、運行供用者に該当しないとされているところ、新たなビジネスモデルにおいても、特定自動運行保安員や特定自動運行主任者等の業務を行う者(個人)は、事業者のために(「他人のために」)業務に従事する以上、原則として運行供用者に該当しないとされています。
 

2. 乗客は運行供用者に該当しないこと

乗客は、自動運転車についての使用権原がなく、希望する目的地まで自身の運送を受ける契約上の権利を有するのみであり、関係法令上も自動運転車に停止を指示する義務はないので「保有者」に該当しません。

また、乗客は特定自動運行では車両の走行に直接関与しないことが前提であるため、運行支配は帰属しておらず、運送による利益も乗客ではなく事業者に帰属するので、運行供用者にも該当しないと整理されました。

3. 新たなビジネスモデルにおける運行供用者責任の所在

道路運送関係法令・制度において、旅客運送の運送主体には様々な義務が課されていることを踏まえると、現行法制度において考えられる旅客運送に係る新たなビジネスモデルの類型を整理すれば、以下の4つに大別できます。

①    旅客自動車運送事業者が、自ら特定自動運行を実施する場合
②    旅客自動車運送事業者が、特定自動運行実施者に対し、運行管理業務の一部等を委託する場合
③    市町村又はNPO法人等が、自ら特定自動運行を実施する場合
④    市町村又はNPO法人等が、特定自動運行実施者に対し、運行管理業務の一部等を委託する場合
 

(出典) 本報告書6頁


(1)①及び③の場合
旅客自動車運送事業者が特定自動運行による旅客自動車運送事業を行う場合、旅客自動車運送事業者は、使用する事業用自動車に対する使用権原を有している必要があります6。また、公共ライドシェアを行う場合も、市町村やNPO法人等は、使用する自動車に対する使用権原を有している必要があります7

したがって、運送主体である旅客自動車運送事業者、市町村又はNPO法人等は、「保有者」に当たることになり、運行供用者に該当すると整理されています。

(2)②の場合
旅客自動車運送事業者が特定自動運行に係る業務を委託する場合、種々の制限8があります。

そのため、旅客自動車運送事業者は、受託者に業務を委託した場合であっても運行指示を行い、引き続き自動運転車の使用権原も有するため、運行支配があることから、運行供用者に該当すると整理されています。

他方で、受託者が担う業務が旅客自動車運送事業者と事前に取り決めた業務に限定されていること9、旅客自動車運送事業者と受託者の関係は、有人の旅客自動車運送事業者とドライバーの関係に類似し、ドライバーには運行供用者責任は生じないことに鑑みると、受託者が指示に従わず無断で自動運転車を使用する例外的な場合を除いて、受託者には運行支配がなく、運用供用者には該当しないと整理されています。

(3)④の場合
公共ライドシェアの運送主体である市町村又はNPO法人等が特定自動運行に係る業務を委託する場合、自動車を使用する権原を有しており、また、運行は市町村又はNPO法人等の選任した運行管理責任者が作成した運行計画に基づく必要があるため、運行支配を有していると考えられます。

したがって、②の場合と同様、市町村又はNPO法人等は、運行供用者に該当すると整理されています。一方で、受託者は②の場合と同様、例外的な場合を除き、運用供用者には該当しないと整理されています。

4. まとめ

上記①から④の各ビジネスモデルではいずれも、旅客自動車運送事業者が運行供用者に該当し、運行供用者責任を負うと整理されました。このような整理は、被害者の自賠法上の責任追及を簡明にし、事故に伴う迅速な被害者救済に資することとなります。

また、①及び②においては、貨物自動車運送事業者が、同様のビジネスモデルにより自動運転トラック等の特定自動運行を行う場合においても同様の整理となるとされています。

Ⅳ. 新たなビジネスモデルにおける自賠法上の「免責要件」について

1. 「免責要件」について

自賠法は、迅速な被害者救済を図るため、運行供用者に事実上の無過失責任を課しており、運行供用者は故意・過失について、以下の3要件を全て満たしていることを証明した場合に限り、免責されることとなります10。免責要件については一定の整理11がされていますが、本報告書では、後述のとおり、①及び③の要件について更なる検討がされました。

①    自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
②    被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
③    自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

2. 新たなビジネスモデルにおける要件該当性

(1)自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」とは、関係法令の遵守をはじめとして、「運転者」及び「保有者」に対して社会的に要求される通常の注意義務を指すとされ、さらに、運行供用者による「運転者」の選任・監督に関する注意義務も含むと解されています12

新たなビジネスモデルにおいて、運行供用者は、受託者又は受託者が指定した特定自動運行主任者等に対してソフトウェアや地図情報、インフラ情報等の外部データ等のアップデート、自動車の修理、遠隔監視装置の作動状態の確認等について、指導・監督する義務を負うものと整理されています。したがって、受託者におけるソフトウェアや地図情報、インフラ情報等の外部データ等のアップデート、自動車の修理、遠隔監視装置の作動状態確認等に過失があった場合は、運行供用者が「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」の要件は満たされないと解することが適当とされています。

(2)自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
「構造上の欠陥又は機能の障害」については、自動車の保安基準その他の法規に違反している場合には、同要件を満たさないが、保安基準に適合しているからといって、必ずしも同要件を満たすものではない旨解されており、「自動車の構造及び機能」については、一般的技術水準に照らして、自動車が通常有すべき構造・機能と解されています13

新たなビジネスモデルにおいても、従前の整理14同様、通信環境の問題により通信が遮断され、遠隔監視装置が正常に作動せず、乗客と遠隔監視者を繋ぐ通信が遮断されたことに起因する事故が生じた場合は、その自動車に「構造上の欠陥又は機能の障害」があるとされる可能性があると整理されています。

Ⅴ. 今後に向けて

本報告書では運送事業を前提とした整理がされましたが、今後、運送事業ではないレベル4の自動運転車の社会実装やレベル5の自動運転車の導入が見込まれる際には、自動運転技術の進展、自動運転車の普及状況、海外における議論の状況等も踏まえ、運行供用者責任の在り方等について検討する必要があるとされています。

  1.  「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会 報告書」(2025年4月30日)。
  2. 国土交通省「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書」(2018年3月20日)。
  3. SWG報告書の概要については、AUTOMOTIVE NEWSLETTER 2024年6月号②をご参照ください。
  4. 自賠法3条。
  5. 自賠法2条3項。
  6. 平成13年8月29日国自旅第72号物流・自動車局長通達、平成13年9月12日国自旅第71号物流・自動車局長通達平成11年12月13日自旅第128号自環第241号物流・自動車局長通達、平成14年1月31日国自旅第165号の2自動車局長通達。
  7. 道路運送法施行規則51条の3第5号。 
  8. 令和7年3月31日国自安第207号・国自旅第352号・国自整第271号物流・自動車局長通達参照。
  9. 令和7年3月31日国自安第207号、国自旅第352号、国自整第271号物流・自動車局長通達。
  10. 自賠法3条ただし書。
  11. 国土交通省「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書」(2018年3月20日)。
  12. 国土交通省物流・自動車局保障制度参事官室監修・自動車保障研究会編集『三訂逐条解説自動車損害賠償保障法』96頁(ぎょうせい、2023年12月18日)。 
  13. 運輸省自動車局監修・自動車保障研究会編集『自動車損害賠償法の解説』44頁(1955年11月25日)。
  14. 国土交通省「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書」22頁(2018年3月20日)。
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