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金融庁パブリックコメント結果を踏まえた公開買付規制改正の解説(後編)

前編(Vol.47)から続く)

Ⅲ. 公開買付けの条件に関する改正

1. 公開買付価格の均一性に関する改正

公開買付価格の均一性については、今般、買付対象の「株券等の種類及び内容に応じ」た均一性が求められるとの改正が行われました(新令8条3項)。この点本件パブコメ(No.108、No.109)では、「従前から内容の異なる2以上の株券等を買付け等の対象とするような場合においても、実質的に買付け等の価格が均一となるようにすべきと解されていたところ、改正後の令第8条第3項は、かかる趣旨を明確化し、株券等の種類及び内容に応じて買付け等の価格を均一にすることを求めるもの」であるとの解釈が示されています。なお、公開買付届出書においては、改正前と同様、株券等の種類に応じた公開買付価格の価額の差について、換算の考え方等の内容を具体的に記載することが求められています(新府令第2号様式記載上の注意(8)(現行(6)e))。

2. 全部勧誘義務に関する改正

今般の改正では、関東財務局長の承認を受けた株券等について全部勧誘義務(令8条5項3号)の例外とすることができる旨が追加されました(新府令5条3項3号)。

新公開買付開示ガイドラインB V.2では、この承認の対象となる株券等の例として「公開買付けの対象とすることが法令上又は実務上不可能である外国金融商品取引所に上場している預託証券」が挙げられています。この点本件パブコメ(No.65)では、全部勧誘義務の対象とはするものの応募の受付は行わないという実務もある米国預託証券につき「府令第5条第3項各号に掲げる株券等に該当する場合を除き、米国預託証券についても買付け等の申込み又は売付け等の申込みの勧誘を行う必要がある」との解釈が示されています。応募の受付は行わないという実務を許容する趣旨かは判然とせず、今後の動向に留意する必要があります。

3. 買付条件の変更に関する改正

(1)公開買付価格の引下げに関する改正

現行法上、公開買付価格の引下げを行えるのは、対象者が①株式分割又は②株主に対する株式若しくは新株予約権の無償割当てを行った場合に限られるところ(法27条の6第1項1号、現行令13条1項)、今般の改正では、この引下事由に、③剰余金の配当及び④決済日より前の日を基準日として①から③の行為を行う旨を決定したことが追加されました(新令13条1項3号・4号)。

上記③(又はこれに係る上記④)の場合に引き下げられる価格は、配当により1株に対して割り当てられる配当財産の価額とされています(新府令19条1項3号)。この点本件パブコメ(No.47)では、上記③の趣旨は、「公開買付けの決済日よりも前の日を基準日として対象者が剰余金の配当を行った場合、当該配当を受領する株主にとっては公開買付けに係る買付け等の価格を引き下げたとしても不利益とならないことから、例外的に公開買付価格の引下げを行うことを認めるもの」であるとした上で、「例えば、普通株式と異なる配当財産が割り当てられる種類株式については、引下げ前の公開買付価格から当該種類株式1株あたりに割り当てられる配当財産の価額を控除した金額を下限として、買付け等の価格を引き下げることが可能」との解釈が示されています。

なお、これらの事由に基づき公開買付価格を引き下げるには、公開買付開始公告及び公開買付届出書においてこれらの事由があった場合に引下げを行うことがある旨の条件を付しておく必要があります(法27条の6第1項1号)。本件パブコメ(No.46)では、このような条件を付した場合でも、「対象者の業務執行を決定する機関による剰余金の配当を行うことの決定が公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情である場合、…公開買付けの撤回事由とすることができる」との解釈が示されています。また、本件パブコメ(No.48)では、「公開買付価格の引下げを行うために、事後的に取消し又は撤回することを予定して(新令第13条第1項)第1号から第3号までに掲げる行為を行うことを決定したような場合には、同項第4号の決定があったとは評価されず、公開買付価格を引き下げることはできない」との解釈が示されています。

(2)買付期間の延長に関する改正

現行法上、買付期間を60営業日を超えて延長できるのは、①法27条の8第8項に基づき訂正届出書の提出等に伴い延長しなければならない場合(令13条2項2号イ)又は②公開買付期間中に対象者の発行する株券等について公開買付者及び特別関係者以外の者が公開買付開始公告等を行った場合(同号ロ)に限られるところ、今般の改正ではこの延長事由に、公開買付けの撤回事由(令14条1項各号に掲げる事由)が生じ、延長について関東財務局長の承認を受けた場合が追加されました(新令13条2項2号ハ、新令40条1項4号)。

新公開買付開示ガイドラインB V.3では、この承認の対象となる場合の例として「公開買付期間中に発行者により公開買付者の株券等所有割合を減少させるような新株予約権の発行が決定され、当該新株予約権の発行について公開買付者がその差止めの仮処分の裁判を申し立てている場合であって、令第8条第1項に定める期間中に当該裁判が終了しない場合や公開買付期間の末日までに令第14条第1項第4号に規定する許可等が得られない場合において、近日中に当該許可等が得られる見込みがある場合等」が挙げられ、「承認する延長期間の設定に当たっては、当該撤回事由が解消される見込み及びその時期等を考慮した上で、公益又は投資者保護のため必要かつ適当な期限を定めるものとし、原則として、公開買付開始公告を行った日から起算して120営業日を超えないものとする」とされています。また、本件パブコメ(No.62)では、公開買付けに要する資金の貸付けに要する許可等が得られないことを「公開買付けに要する資金の貸付けを受けることが法令に違反することとなる場合」として撤回事由に指定した場合において(下記4.⑤参照)、公開買付期間の末日後、近日中に当該許可等が得られる見込みがある場合には、「通常、承認の対象となり得る」との解釈が示されています。なお、本件パブコメ(No.59)では、撤回事由が生じる前であってもそれが見込まれる事情が生じたときには、その時点から承認申請を行うことができる旨が明らかにされています。

(3)訂正届出書提出等に伴う買付期間の延長が不要となる場合の拡充

公開買付期間が残り10営業日を切ってから訂正届出書の提出等を行った場合、原則として、訂正届出書提出日(同日を含みます)から10営業日後の日まで公開買付期間を延長しなければなりません(法27条の8第8項、現行府令22条2項本文(新府令22条3項本文))。かかる延長が不要な場合として、現在は以下の2つが定められています。

①形式上の不備があることにより訂正届出書を提出する場合(現行府令22条1項(新府令22条1項1号))
②買付期間の延長以外に買付条件等の変更がないとき(現行府令同条2項但書(新府令同条3項但書))

今般の改正では、これに、以下の2つが追加されました。
 

③株券等の取得につき必要となる許可等を得られたことにより訂正届出書を提出する場合(当該許可等に投資判断に重要な影響を及ぼす条件が付されていない場合に限る)(新府令22条1項2号)
④買付期間を延長しないことについて関東財務局長の承認を受けた場合(新府令22条1項3号)


このうち③の「当該許可等に投資判断に重要な影響を及ぼす条件が付されていない場合」について、新公開買付けQ&A問45では、「公開買付期間中に、公正取引委員会から排除措置命令を行わない旨の通知を受けた場合、「許可等」があったものとして、公開買付届出書の訂正届出書を提出する必要がある」とした上で、「問題解消措置が講じられることを前提に排除措置命令を行わない旨の通知を受けた場合には、当該問題解消措置の内容等によるものの、通常、投資判断に重要な影響を及ぼす条件が付されているものとして、当該訂正届出書の提出に伴う公開買付期間の延長をする必要がある」とされています。

4. 撤回事由の拡充

公開買付けの撤回ができるのは、①発行者又はその子会社の業務又は財産に関する重要な変更その他の公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情で政令で定めるもののうち、公開買付者が公開買付開始公告及び公開買付届出書において指定した事情が生じた場合及び②公開買付者に関し破産手続開始の決定その他の政令で定める重要な事情の変更が生じた場合に限られるところ(法27条の11第1項)、今般の改正により、上記①について事由が追加されました(なお、上記②については実質的な改正はありません)。追加された撤回事由は以下のとおりです。
 

①対象者の業務執行を決定する機関が対象者の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針に照らして不適切な者によって対象者の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組を行う旨の決定(公開買付開始公告を行った日以後に公表されたものに限る)をしたこと(新府令26条4項2号)


現行令においても、対象者が買収への対応方針を導入・公表している場合に、それを維持する旨の決定を行ったことは撤回事由とされていますが(現行令14条1項2号イ等)、公開買付け開始後に導入・公表した場合にも拡充するものといえます。
 

②当該公開買付けにより株券等の買付け等を行うことが他の法令(外国の法令を含む)に違反することとなること(新府令26条4項3号)


本件パブコメ(No.50~No.52)では、本号が具体的に想定している場面として、「例えば、買付け等を行う者が発行する株式を対価とする公開買付けにおいて、当該買付け等を行う者が公開買付けの対価として株式を発行すること自体が会社法等の法令に違反することとなる場合が該当する」との解釈が示されています。

また、本件パブコメ(No.53)では、本号に基づき「公開買付けを撤回するためには、公開買付開始公告及び公開買付届出書において、具体的な法令及び条項の適用関係をあわせて記載する必要がある」との解釈も示されており、かつ、本号の事由を撤回事由として指定する際には「必要に応じ、疎明資料その他参考となる資料の提出を求めることがあ」る旨が明らかにされています。
 

③当該公開買付けによる株券等の買付け等の差止めその他これに準ずる処分を求める仮処分命令の申立てがなされたこと(公開買付者の特別関係者によって行われた場合を除く)(新府令26条4項4号)
④法192条1項の規定に基づき当該公開買付けによる株券等の買付け等の禁止又は停止の申立てがなされたこと(新府令26条4項5号)
⑤新府令26条4項1号(現行府令26条4項)及び上記①から④の事情に準ずる事情であって、公開買付者が公開買付開始公告及び公開買付届出書において指定した事情が生じたこと(新府令26条4項6号)


新公開買付開示ガイドラインB I.第1-12-1では、「公開買付けに要する資金の貸付けを受けることが法令に違反することとなる場合(公開買付け開始時点において、公開買付者が当該貸付けが法令違反となる蓋然性を認識することができた場合を除く)」が本号の事由に該当するとの解釈が示されています。

この点に関し本件パブコメ(No.55)では、「出資その他の資金の提供を受けることが法令に違反することとなる場合も、資金の貸付けを受ける場合と同様、公開買付けの撤回事由になるものと考えられ、例えば、外国投資家から公開買付けに要する資金の出資を受けようとしたところ、当該出資が外国為替及び外国貿易法等の規定により禁止される場合等が該当する」との解釈が示されています。

また、本件パブコメ(No.56、No.57)では、本号の撤回事由を指定する場合には、「公開買付開始公告及び公開買付届出書において、具体的な法令及び条項の適用関係をあわせて指定する必要があ」るとの解釈が示されるとともに、指定時には「必要に応じ、公開買付届出書の事前相談において、疎明資料その他参考となる資料の提出を求めることがあ」る旨、及び「今後、疎明資料その他参考となる資料のフォーマットの公表についても、検討」していく旨も明らかにされています。
 

⑥公開買付けの撤回を行うことについて関東財務局長の承認を受けたこと(新府令26条4項7号)


本件パブコメ(No.63)では、本号の承認を受けることを「公開買付開始公告及び公開買付届出書において撤回事由として指定する時点では、通常、その旨を公開買付開始公告及び公開買付届出書に記載することで足り、別途関東財務局に対する疎明資料の提出は不要」であるものの、「承認申請書を提出する際に、必要に応じ、参考となる資料の提出を求めることがあ」る旨が明らかにされています。

新公開買付開示ガイドラインB V.5では、本号の承認の対象となる場合の例として「公開買付け開始前には予見できなかった公開買付け開始後の法令の改正によって、公開買付けの目的の達成が困難となった場合」が挙げられています。

Ⅳ. 公開買付けの開示に関する改正

1. 公開買付届出書の記載事項の拡充

今般の改正では、公開買付届出書の記載事項(府令第2号様式)についても改正が行われています。主な改正は以下のとおりです。

(1)第1【公開買付要項】3【買付け等の概要】の追加
 

買付け等の概要として、公開買付けの目的、買付け等の期間、買付け等の価格、買付予定数の下限・上限、対象者の意見を表形式で記載。


公開買付けの目的は第1【公開買付要項】4【買付け等の目的】で詳細に記載されることが想定されており、3【買付け等の概要】では「完全子会社化」、「非公開化」又は「連結子会社化」等、簡潔に記載することとされています(新記載上の注意(5)a)。

(2)第1【公開買付要項】4【買付け等の目的】の記載内容の明確化

本項目に記載すべき内容についてこれまで様式上は必ずしも記載すべき項目やそれに応じた詳細な記載上の注意は定められていませんでしたが、実務上関東財務局から様々な記載事項についての指導がなされてきたところであり、これらが明確化されました。基本的には、現行の実務上一般的な記載から大きな変更はありませんが、以下の点については特に留意が必要です。
 

①【公開買付けの目的の概要】において、スクイーズアウト手続、並行買付け、対象者が新たに発行する株券等の取得、対象者による自己の株式の取得その他の公開買付けの目的を達成するために公開買付けと並行して又は関連して行われる取引(「公開買付関連取引」)を行うこと又は行うことを対象者に要請することを予定している場合には、その旨を記載(新記載上の注意(6)d)。


公開買付関連取引の内容については【その他公開買付けに関する重要な事項】に記載することになります(新記載上の注意(15))。

 

②【公開買付者が公開買付けの実施を決定するに至った背景、目的及び意思決定の過程】において、届出日までに対象者の株主等との間で公開買付けの応募又は公開買付関連取引に関する協議・交渉を行った場合には、当該協議・交渉の内容について記載(新記載上の注意(7)b)。


この株主等との協議・交渉の内容については「届出日までに」行われたものが記載の対象とされていることからすれば、届出日後に株主等との間で協議・交渉が行われた場合でも、それのみで訂正届出書の提出を要するものではないと解されます。
 

③【公開買付け後の経営方針】において、買付予定数の上限を付している場合には、公開買付け後に公開買付者以外の対象者の株主等との間で生じ得る利益相反により当該株主等の利益を害しないことを確保するための措置の内容について具体的に記載(当該措置を実施しない場合には、その理由について記載)(新記載上の注意(10)d)。


WG報告において、部分買付けの強圧性に関して、「部分買付けを実施する公開買付者に対しては、公開買付届出書における開示の規律を強化し、部分買付け後に生じる少数株主との利益相反構造に対する対応策や一般株主から反対があった場合の対応策についての説明責任を果たさせる措置などが考えられる」とされていたこと(WG報告I.3.)を受けた改正といえます。

この点に関し、新公開買付開示ガイドラインB I.第1-4-(2)-4①ニでは、上記の措置について、「例えば、取締役会において公開買付者等からの独立性を確保するのに十分な数の独立社外取締役を選任する、又は公開買付者等と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行うために独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置する」といった例示がなされています。
 

④【公開買付けの公正性を担保するための措置】において、公開買付者又は対象者が公開買付けの公正性を担保するための措置を実施した場合には、その内容を具体的に記載し、当該措置を実施しなかった場合には、その理由を記載(新記載上の注意(11)a)。


この「当該措置を実施しなかった場合」という点に関し、本件パブコメ(No.74)では、「およそ想定される全ての公正性担保措置について記載することを求める趣旨ではなく、個別の事案における利益相反の程度や情報の非対称性の問題の程度、対象者の状況や取引構造の状況等に応じて実務上一般に講じられている措置を実施しなかった場合には、その理由を記載することを求めるものである」との解釈が示されており、全ての案件において、想定され得る公正性担保措置について不実施の理由をすべからく記載することが求められるわけではないことが明らかにされています。もっとも、特別委員会については、新公開買付開示ガイドラインB I.第1-4-(3)③において、「公正性担保措置を講じていると記載しながら、対象者が独立性を有する特別委員会を設置していない場合には、その理由が記載されているか審査する」とされています。
 

⑤【公開買付けの公正性を担保するための措置】において、買付予定数の上限を付している場合であって、一定数以上の議決権を有する対象者の株主が当該条件を付した公開買付けに反対する場合の公開買付者における対応方針を定めているときは、株主の意思確認の方法及び当該対応方針の内容を記載(新記載上の注意(11)g)。


上記③と同様、WG報告I.3.を受けた改正といえます。株主の意思確認の具体的な方法について、本件パブコメ(No.75)では、「一部の株主にしか意思表示を行う機会が事実上与えられない等の買付者による恣意的な運用を排除した方法とすべき」との解釈が示されていますが、具体的にどのような方法が想定されているかは明確にされておらず、今後の実務に委ねられるものと思われます。
 

⑥【公開買付けに係る重要な合意】において、対象者の株主等との間で公開買付けに応募し、又は応募しない旨の合意をしている場合、対象者との間で公開買付けに関する一定の意見を表明する旨の合意をしている場合その他公開買付け又は公開買付関連取引に関連して投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす合意をしている場合には、これらの合意の相手方の氏名又は名称及び合意の内容を記載(新記載上の注意(14)a)。


現行公開買付開示ガイドラインB I.第1-3-8では、「公開買付けに係る重要な合意として、公開買付けに関して締結された応募契約、不応募契約、公開買付契約、株主間契約、経営委任契約等の合意の概要が記載されることが一般的である」とされていますが、今般、「公開買付けに関して締結された応募契約、不応募契約、公開買付契約(対象者との間で締結される、対象者が公開買付けに関する一定の意見を表明することを内容に含む合意をいう。)その他公開買付け又は公開買付関連取引に関連して投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす合意(例えば、経営委任契約、部分取得を目的とする公開買付けに関連して締結される株主間契約等)の相手方の氏名又は名称及び合意の内容を記載する必要がある」と記載内容が変更されました(新公開買付開示ガイドラインB I.第1-4-(6))。この記載の変更に関し、本件パブコメ(No.84)では、部分取得が目的ではない場合、非公開化後に適用される株主間契約は投資家にとって重要な意味を持たないため、原則として開示の対象から除外する趣旨であることが明らかにされるとともに、経営委任契約については、「対象者の役員となる者の公開買付けに関連する利害得失に関わる契約として、当該公開買付けがいわゆる全部取得又は部分取得のいずれを目的とするものであるかに関わらず、投資者の投資判断における情報として重要な場合があることから例示しているものであり、この観点から必要な情報が個別具体的な事案に即して具体的に記載される必要がある」との解釈が示されています。
 

⑦【公開買付けに係る重要な合意】において、1%超の議決権を有する対象者の株主等から届出日において公開買付けに応募し、又は応募しない旨の意向を表明されている場合には、当該株主等の氏名又は名称及び表明された意向の内容を記載(新記載上の注意(14)b)。


この意向表明については、「届出日において」行われたものが記載の対象とされていることから、届出日後に新たな意向が表明された場合でも、それのみで訂正届出書の提出を要するものではないと解されます。

(3)第3【公開買付者及びその特別関係者による株券等の所有状況及び取引状況】5【大量保有報告書等の提出状況】の追加
 

公開買付者又はその特別関係者が、対象者の株券等に係る大量保有報告書若しくは変更報告書又はこれらの訂正報告書を提出している場合(提出すべきであったこれらの書類を提出していなかった場合を含む)には、これらの書類の名称、提出者及び提出年月日(これらの書類を提出していない場合にあっては、その旨)を記載(ただし、これらの書類を提出した日又はこれらの提出義務の原因となる事実が生じた日が届出日の5年前の日より前である場合には、この限りではない)(新記載上の注意(35))。


本件パブコメ(No.78)では、本項目に提出状況を記載すべき大量保有報告書や変更報告書は提出期限が到来しているものであることが明らかにされるとともに、「公開買付期間中に提出期限が到来する大量保有報告書又は変更報告書がある場合には、上記に準じ、その提出状況について記載した公開買付届出書の訂正届出書を提出する必要がある」ものの、「公開買付届出書の提出日において大量保有報告書又は変更報告書の提出義務が発生している場合であって、当該大量保有報告書又は変更報告書について、法定の提出期限、当該提出期限までに提出する予定である旨及び提出予定者を公開買付届出書に記載したときには、当該提出予定者が当該提出期限までに当該大量保有報告書又は変更報告書を提出したことのみをもって公開買付届出書の訂正届出書を提出する必要はない」との解釈が示されています。

2. 意見表明報告書の記載事項の拡充

意見表明報告書の記載事項(府令第4号様式)についても、「3【買付け等の概要】」の項目が追加され、公開買付けの目的、買付け等の期間、買付け等の価格、買付予定数の下限・上限を表形式で記載することとなりました。公開買付届出書の同項目に準じて記載することとされています(新記載上の注意(2))。

また、「4【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由等】」について、公開買付届出書と同様、記載すべき項目やそれに応じた詳細な記載上の注意が定められました。公開買付届出書と同様、基本的には、現行の実務上一般的な記載から大きな変更はありませんが、以下の点については特に留意が必要です。
 

①【意見の根拠及び理由】において、買付予定数の上限が付されている場合であって、公開買付けに反対する意見を表明しないときには、公開買付け後に公開買付者以外の対象者の株主等との間で生じ得る利益相反により当該株主等の利益を害しないことを確保するための措置の内容について具体的に記載(当該措置を実施しない場合には、その理由について記載)(新記載上の注意(4)d)。


これは上記1.(2)③【公開買付け後の経営方針】における記載と同趣旨です。
 

②【公開買付けの公正性を担保するための措置】において、公開買付者以外の者による対抗提案を行おうとする者との接触を制限する旨の合意を公開買付者との間でしている場合には、その旨、当該合意の内容及び当該合意が公開買付けの公正性に与える影響を記載(新記載上の注意(5)f)。

3. 公開買付説明書の簡素化

公開買付説明書の記載事項の大部分は公開買付届出書の記載事項と重複しているところ、今般の改正により、公開買付説明書においては、公開買付届出書に記載された事項について、公開買付開始公告の記載事項を除き、公開買付届出書を参照すべき旨及びその閲覧方法(URL)を記載することで省略できることとなりました(新法27条の9第2項、新府令24条4項)。

また、訂正届出書を提出した場合でも、形式上の不備があることにより訂正届出書を提出する場合、株券等の取得につき必要となる許可等を得られたことにより訂正届出書を提出する場合(当該許可等に投資判断に重要な影響を及ぼす条件が付されていない場合に限る)及び買付期間を延長しないことについて関東財務局長の承認を受けた場合には、公開買付説明書の訂正は不要とされました(新法27条の9第4項、新府令24条6項)。

Ⅴ. 公開買付けの予告公表に関する変更

公開買付けの予告公表については、従前、公開買付開示ガイドライン及び公開買付けQ&Aで一定の指針・解釈が示されていますが、今般の改正に伴い、かかる指針・解釈についても一定の変更が行われました。

具体的には、新公開買付開示ガイドラインB III.4において「実現可能性がなくなった公開買付けの予告公表が継続することは、市場に混乱を生じさせるおそれが高いことに鑑み、予告公表において記載された開始予定時期が間近に迫っているにもかかわらず、公開買付者から公開買付届出書又は開始予定時期の変更に係る公表文の事前相談を受けていない場合には、公開買付者に対しこれら書面の提出・公表予定時期や公開買付けの予告を撤回する意向の有無を確認する」との記載が追加されるとともに、同A 3において「事前の相談や審査等の過程において風説の流布や相場操縦行為が疑われる等、公益又は投資者保護上の問題が生じていることを認識した場合には、証券取引等監視委員会とも適切な連携を図ることにより、的確に対応することが重要である。連携に際しての情報の取扱い等については、適切に行うことに留意する」との記載も追加されました。

また、新公開買付けQ&A問31(変更前問48)では、公開買付けの予告公表が風説の流布や相場操縦行為等に該当し得る場合の例について、以下のとおり変更されました。
 

変更後変更前
公開買付けを実際に行う合理的な根拠がない(公開買付けの決済に要する資金の調達について相当程度の確度がない場合を含みます。)にもかかわらず、公開買付けを実施する予定がある旨を公表するような場合公開買付けを実際に行う合理的な根拠がないにもかかわらず、公開買付けを実施する可能性がある旨を公表するような場合


このうち「公開買付けの決済に要する資金の調達について相当程度の確度」という点について、本件パブコメ(No.94)では、「個別事案ごとに実態に即して判断すべき」としつつ、「予告段階であることに鑑みれば、例えば、対象者を特定した上で資金調達の確度が高いことを示すために資金の出し手となる予定の金融機関が出すレターを入手している場合には、『公開買付けの決済を要する資金の調達について相当程度の確度』がある」との解釈が示されています。なお、「可能性」から「予定」への変更については、本件パブコメ(No.93)において、「いわゆる公開買付けの予告公表を念頭に置いたものであることからその趣旨が明確になるよう修正するもの」との説明がなされており、実質的な内容には変更はないものと思われます。

Ⅵ. 施行日

改正後の政府令等を含む改正後公開買付規制は、一部の規定を除き、2026年5月1日に施行されます。そのため、2026年5月1日以降に開始される公開買付案件については、すべからく改正後の公開買付規制の適用対象となります。なお、本件パブコメ(No.113)では、「施行日前に公開買付けの実施予定を公表している場合であっても、公開買付開始公告を施行日以後に行う場合には、当該公開買付開始公告に係る公開買付けには改正後の金商法及び政府令の規定が適用される」とされている点に留意が必要です。

また、強制公開買付規制の改正に伴い、改正前においては公開買付けによる必要のない取引であっても、改正後公開買付規制の下では公開買付けによることが必要となる場合もあります。したがって、施行日以前から改正後の公開買付規制に沿った検討・開示の準備を行う必要がある点に留意が必要です。

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