Ⅰ. はじめに
2025年8月13日、霞ヶ関ホテルリート投資法人の投資口が株式会社東京証券取引所(以下「東京証券取引所」といいます。)の不動産投資信託証券市場に上場されました。REITの新規上場は、2021年6月22日の東海道リート投資法人以来約4年ぶりとなります。
当事務所は、発行体の法律顧問として、資産運用会社の立ち上げ段階から投資法人の上場まで全面的にサポートしました。本ニュースレターでは、本案件の概要を公表情報に基づき一部紹介します1。
Ⅱ. 霞ヶ関ホテルリート投資法人の新規上場について
1. 投資法人の概要
霞ヶ関ホテルリート投資法人(以下「本投資法人」といいます。)は、東証プライム市場に上場するデベロッパーである霞ヶ関キャピタル株式会社をスポンサーとする不動産投資法人です。本投資法人の運用を受託する霞ヶ関リートアドバイザーズ株式会社(以下「本資産運用会社」といいます。)は、霞ヶ関キャピタル株式会社の完全子会社です。
本投資法人の規約では、主として国内の主要な観光地及びビジネス適地を中心とした中長期的に宿泊需要が見込まれる地域に所在する不動産に投資するものとされており、ポートフォリオにおける用途としては主としてホテルを投資対象としています。また、本投資法人の2025年7月9日付有価証券届出書によると、日本の観光立国化の実現に向けて、高い観光需要が期待できる都市に立地する多人数向けホテル2「fav(ファブ)」、「FAV LUX(ファブラックス)」及び「seven x seven(セブンバイセブン)」へ重点投資することとされています。
本投資法人が取得した「fav」、「FAV LUX」及び「seven x seven」の各ホテルは、スポンサーである霞ヶ関キャピタル株式会社が開発を行っています。また、上記「fav」、「FAV LUX」及び「seven x seven」の各ホテルの運営を担うオペレーターはfav hospitality group株式会社であり、同社はスポンサーのグループ企業です。本投資法人は、このようなスポンサーグループによる開発ホテルの取得機会及びホテル運営の両輪でのサポートを受け、成長していくことを目指すこととされています。
2. スケジュール
本資産運用会社及び本投資法人の設立から運用開始に至るまでの主要なスケジュールは以下の通りです。
2023年11月1日 | 本資産運用会社設立 |
2024年2月9日 | 本資産運用会社による宅地建物取引業の免許取得 |
2024年9月3日 | 本資産運用会社による宅地建物取引業法上の取引一任代理等の認可取得 |
2024年12月18日 | 本資産運用会社による金融商品取引業(投資運用業)に係る登録 |
2025年3月26日 | 設立企画人(本資産運用会社)による投信法69条1項に基づく本投資法人の設立に係る届出 |
2025年4月1日 | 投信法166条に基づく本投資法人の設立の登記、本投資法人の成立 |
2025年4月14日 | 投信法188条に基づく本投資法人の登録の申請 |
2025年4月24日 | 内閣総理大臣による投信法187条に基づく本投資法人の登録の実施 |
2025年5月15日 | 本資産運用会社による一般社団法人投資信託協会加入 |
2025年7月9日 | 東京証券取引所による本投資法人投資口の上場承認 |
2025年8月13日 | 東京証券取引所における本投資法人投資口の上場 |
3. 新規上場に伴う公募増資
2025年7月9日に提出された有価証券届出書及びその後の訂正届出書によると、新規上場に伴い、投資口の一般募集が行われ、285,700口の投資口が発行され、12,685口のオーバーアロットメントによる売出しも行われました。
発行価格は、東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則1210条に規定するブック・ビルディング方式(投資口の取得の申込みの勧誘時において発行価格に係る仮条件を投資家に提示し、投資口に係る投資家の需要状況等を把握した上で、発行価格等を決定する方法をいいます。)により決定されました。一般募集の発行価格及びオーバーアロットメントによる売出しの売出価格は1口当たり100,000円、発行価格の総額は28,570,000,000円(下記の海外販売分を含みます。)、オーバーアロットメントによる売出しの売出価格の総額は1,268,500,000円でした。
一般募集に係る発行投資口数285,700口のうち33,282口は、欧州及びアジアを中心とする海外市場(ただし、米国及びカナダを除きます。)の海外投資家に対して販売されました。
オーバーアロットメントによる売出しに関連して、主幹事会社であるみずほ証券株式会社は、借入投資口の返還に必要な本投資口を取得するため、オーバーアロットメントによる売出しに係る口数を上限として、一般募集の発行価額と同一の価格で追加的に本投資口を指定先から買取る権利をスポンサーである霞ヶ関キャピタル株式会社から付与されました。
4. 新規上場に伴う物件取得
本投資法人は、新規上場に伴い、一般募集の対象となる投資口の発行により調達する資金及び借入金により、15物件を取得しました。取得資産はいずれもスポンサーが開発したホテルで、全国各地に所在します。取得価格の合計は49,210,000,000円です。このように投資法人がスポンサーからホテルを取得する場合には、以下の論点が問題となることがあります。
(1)スポンサーとの利益相反に係る問題
上記Ⅱ.1.に記載の通り、本投資法人がIPOに際して取得した物件は、すべてスポンサーの開発する物件であり、本資産運用会社の利害関係者取引規程に定める利害関係者から取得しており、また、同利害関係者に賃貸がなされています。
この点、REITのように資産運用会社の大株主であるスポンサーと投資法人との間で多くの取引が行われることが想定される場合には、資産運用会社が投資法人の資産をスポンサーの利益のために運用するおそれに対する投資家の不安を払拭するためにも、利害関係者との取引に関しては、より厳格で透明性の高い意思決定プロセスを採用することが求められています(監督指針VI-2-6-3-(2))。なお、2024年6月14日の監督指針の改正では、利益相反取引に係る適切な管理態勢を構築する必要があるため検証が必要な点の例示として、「利益相反取引が起こりうる可能性のある者との取引について事後的な検証が行えるよう、例えば、社内での検討資料や当該者との面談記録等を適切に作成・保存しているか」が追記されています。
本投資法人についても、取得資産の売主及び賃借人は、本資産運用会社の自主ルールである利害関係者取引規程に定める利害関係者に該当することから、本資産運用会社は、利害関係者取引規程3その他の社内規程に基づき、必要な審議及び決議を経ていることなど、スポンサーとの利益相反に留意して運営がなされることが明らかにされています。
(2)他業禁止に係る問題
ホテルリートのように、その運営に重要性がある資産(いわゆる「オペレーショナル・アセット」)に投資する場合、当該資産を第三者に賃貸するのではなく、投資法人自身が当該事業の主体となり、実際の運営を専門業者である第三者に委託するスキームを採ることが可能かという問題があります。投資法人は、資産の運用以外の行為を営業として行うことが禁止されており(投信法63条1項)、投資法人の権利能力は資産の運用行為に限定されているためです。ただ、この資産の運用に関して、投資法人は、特定資産について、規約に定める資産運用の対象及び方針に従う限り、政令で個別に禁止されている取引4以外の取引を行うことができることとされています(投信法193条1項、投信法施行令116条)。実際に、実務においても、ホテルリート等では賃貸方式ではなく運営委託方式をとっている事例も存在します。
本投資法人が取得した物件は、すべて賃貸借方式をとるものであり5、一部変動賃料を導入しているものの、運営委託方式を採用するものではありません。
Ⅲ. REITのIPO
1. REITのIPOとは
不動産投資法人(REIT)には、投資口を取引所に上場する上場REITと、投資口の上場を行わない私募REITがあります。上場REITの投資口は取引所で売買することができるため、投資家にとっても取得しやすく、また、取引所において一般投資家も投資口を取得することができるため、多数の投資家から広く資金を集めることができるというメリットがあります。
上場REITとなるためには、事業会社とは異なるREIT特有の上場要件を満たした上で取引所の上場審査を受け、上場承認を受ける必要があります。また、通常、かかる上場手続きと同時に公募増資が行われ、調達した資金で物件取得が行われます。これら一連の流れをIPOといいます。
2. 必要な手続き
事業会社では設立後ただちに上場する例は多くはないですが、REITの場合、投資法人設立後数か月で上場を行い、上場と同時に初めての物件取得を行うという例が多くみられます。この場合、IPO準備と投資法人の設立手続きが同時に進行することになります。
また、投資法人設立の以前の段階として、投資法人が資産の運用を委託する資産運用会社の設立・必要な許認可の取得から取り組むケースもありますし、既に許認可を有する資産運用会社に資産の運用を委託した上で上場を目指すケースもあります。
本稿では、資産運用会社の設立・許認可取得から上場まで取り組む場合の流れを簡単に概説します。
(1)資産運用会社の設立・許認可取得
REITの資産運用会社は、投信法199条に従い、①金融商品取引法29条の登録、②宅地建物取引業法3条の免許、③宅地建物取引業法50条の2の認可を受ける必要があります。これらの許認可を取得するために、株式会社(取締役会設置会社)として設立した後、法令若しくは監督指針又は監督官庁の求める一定の社内体制を整えていきます。社内体制の整備においては、部署や委員会の設置、人員の配置(特に一部の役職員に関しては法令等に基づく要件があります。)、社内規程の整備等が重要となります。
(2)投資法人の設立・登録
投資法人を設立する際には、設立企画人が、株式会社における定款に該当する規約を作成するところから始まります。設立企画人は、設立後にその資産運用会社となる予定の会社がなることが通例です。
その上で、設立企画人は、所定の事項・書類を記載・添付し、管轄財務局長等に対して投資法人の設立に係る届出を行い、設立時発行投資口を引き受ける者(資産運用会社の親会社となるのが通例です。)の募集を行います。そして、設立時役員による所定の事項の調査を経て、設立の登記を行うことで投資法人が成立します。
設立された投資法人は、管轄財務局長等の登録を受けなければ、資産の運用として投信法に規定する行為ができないため、投信法に基づく登録の申請を速やかに行います。
(3)上場申請
株式会社東京証券取引所の不動産投資信託証券市場に上場しようとする場合、主幹事証券会社が事前相談を行った上で上場申請を行いますが、実務上は上場申請(本申請)に先立って予備申請が行われます。
予備申請の時点で投資法人が設立されている必要があるほか、予備申請時点、本申請時点で提出すべき書類・契約の写しが多数ありますので、設立や契約締結のスケジュールには留意して進める必要があります。審査担当者からのヒアリング等を経て、上場が承認され、公表されます。
上場審査において用いられる基準としては、ポートフォリオに占める不動産等の比率や資産運用会社の投資信託協会への加入等からなる形式要件と、資産の運用等を健全に行うことができる状況にあるかどうか等の実質審査基準があります。
(4)公募増資・物件取得
上場が承認され公表されるのと同時に、投資口の公募増資が公表されることが通例です。この際、金融商品取引法の開示規制にのっとり、EDINETを通じて有価証券届出書を提出することになります。有価証券届出書では、投資法人が掲げる投資方針や成長戦略、当該投資法人の投資口に投資するにあたってのリスク、公募増資により調達する資金で取得する物件の情報、投資法人の運用体制等の詳細な説明を正確に記載する必要があります。
また、公募増資により調達する資金で取得する物件については、有価証券届出書において当該物件のリスク(いわゆる「特記事項」)も含めて正確にわかりやすく開示するために、事前のデューデリジェンスが必要となります。
Ⅳ. おわりに
本ニュースレターでは、4年ぶりとなるJ-REITの新規上場の紹介及び投資法人のIPOに関する概略を解説しました。J-REITに関わる皆様の一助となれば幸いです。
- 本稿において述べる意見はいずれも筆者らの私見であり、筆者らが所属する組織の見解を示すものではありません。
- 「多人数向けホテル」とは、複数名で宿泊することを前提とし、宿泊料金が宿泊者数ごとではなく一部屋ごとに設定されているホテルを指すものとされています。
- 本資産運用会社の自主ルールである利害関係者取引規程については、本投資法人の2025年7月9日付有価証券届出書「第二部 ファンド情報 第1 ファンドの状況 7 管理及び運営の概要 (2) 利害関係人との取引制限 ② 利害関係者取引規程」をご参照ください。
- 登録投資法人は、特定資産について、規約に定める資産運用の対象及び方針に従い、①有価証券の取得または譲渡、②有価証券の貸借、③不動産の取得または譲渡、④不動産の貸借、⑤不動産の管理の委託、⑥上記①~⑤に掲げるもののほか、「政令で定める取引」を行うことができるものとされていますが(投信法193条1項)、この「政令で定める取引」は、宅地の造成または建物の建築を自ら行うことに係る取引等の一定の取引を除いた特定資産に係る取引という形で規定されています(投信法施行令116条)。なお、投資法人が行うことができない一定の取引は、現在、(a)宅地の造成または建物の建築を自ら行うことに係る取引、(b)商品の生産、製造、加工等を自ら行うことに係る取引、(c)再生可能エネルギー発電設備の製造、設置等を自ら行うことに係る取引の3つとされています(投信法施行令116条)。
- 本投資法人の採用する賃貸借方式の詳細については、本投資法人の2025年7月9日付有価証券届出書「第二部 ファンド情報 第1 ファンドの状況 2 投資方針 (2) 投資対象 ③ 取得予定資産の概要」をご参照ください。